3章「白濤の港町」
第40話「 巨眼の猛進 - Break Through the Cyclopean Nest!. - 」
離島滞在3日目。
フィリア達は他の参加者と協力して、洞窟を攻略することになる。
その中で、様子がおかしい単眼巨人〈サイクロプス〉の群れに遭遇。14人がかりで戦うことになる。
フィリアとエレナは、目の色が変わった単眼巨人〈サイクロプス〉に囲まれた。
手に持った棍棒を振りかざした時、
『伏せな!』
力強い女性の声が響いた。
反射でフィリアとエレナはその場に伏せる。
瞬間、閃光弾が光る。
すかさず、力強い声の持ち主は、前に出て2人を襲おうとした単眼巨人の顔面にカットラスで斬りかかった。
体制を崩し、その場に倒れ込む巨体の音が、2人に響く。
『お前ら! そのまま加勢しな!』
頼もしい声。
その正体は、離島に向かう際に出会った、自警団『ダイダロス』のリーダー『リヴァナ』だった。
彼女の声の後、数名の足音が聞こえた。
「リヴァナさん……?」
窮地を脱したフィリアは、彼女の名前を呼ぶ。
「無事でよかった。 そこの桃髪のあんたも、よく庇おうとしたね」
リヴァナは屈む2人と目線を合わせて、少しだけ笑う。
「どうしてここに?」
フィリアが続けて問うと、
「嫌な地鳴りがしたんだよ。 そしてコイツらの雄叫び。 嫌な予感がしたし、この場所は知ってたから、加勢に来たってことだ」
リヴァナは親指を後ろに返して指を指す。
待機中だった『ダイダロス』の団員を連れてやってきたのだ。
「……って言いたいところだけど、魔術師は貴重だからな。 落ち着いたら、また頼むよ」
そう言って、そのまま戦場へと賭けて行った。
リヴァナが駆けていく中、心配したヴィレムがフィリアの元へとやってくる。
すれ違い際に、ヴィレムは彼女に微笑む。
そして、攻略メンバーだった『ダイダロス』のひとりが、
『姉御〜〜! 待ってたぜ〜〜!』
と、声を上げる。
「ったく、頼りないね。 特訓メニュー増やすからな!」
そんなたわいの無いやり取りの後、再び戦場に金属音が鳴り響く。
ヴィレムはフィリアの元へ。
「フィー怪我は……大丈夫ですね。 エレナ様フィーを守ってくださりありがとうございます」
「え……いや、私は何も……」
実際エレナは、フィリア庇おうとしただけだった。
だか、フィリアはその一瞬に助けられた。
「ううん、エレナ。ありがとう」
硬直していたフィリアは、エレナにほほ笑みかける。
まるで彼女を安心させるかのように。
エレナは嬉しくなって、フィリアに抱きつきそうになるが、ヴィレムが口を挟む。
「こうしてる暇はありません。 引き続き、魔術での援護をお願いします。私はここから貴方を守ります」
ヴィレムはそう言って、フィリアの前に立った。
「フィー、貴方の魔術が頼みの綱です」
ヴィレムに頼られる。
それは彼女にとって嬉しいことのひとつ。
その一言で彼女は立ち上がる。
「うん! 任せて!」
エレナはフィリアに回復魔術と、魔術の強化をかける。
そして持ち場に戻った。
◇
戦況は押し戻った。
様子が異なる単眼巨人は未知数。
けれど、加勢に来てくれた『ダイダロス』はとても頼もしかった。
今度は大丈夫。
フィリアは目の前に立つヴィレムの背中を見て心の中で呟いた。
そして、
「清らかなる氷よ、大地より現れ、敵の道を断て──」
氷魔術を唱え始める。
「グレイシャルリッジ!!」
エレナの魔術強化によりいつもより発動も術の威力も強かった。
氷魔術によって生成された氷柱は等間隔で単眼巨人を囲む。
すかさずフィリアは、次の魔術詠唱へと入る。
ヴィレムはそれを感じ取り、敵の注意を引く。
「輝かしき光、一瞬の閃光となりて、敵の視界を奪え──」
『ルーセント!』
いつもより強めのルーセントの光が、氷柱に反射して輝きを増す。
「やった……!」
狙い通りに、単眼巨人の撹乱に成功する。
チャンスに気がついたリヴァナは『今だ!』と合図をして、前衛は猛攻を仕掛ける。
また数体、どしんと巨体が倒れる音が鳴り響く。
残す敵は一体。
どうにも手強い単眼巨人だった。
倒れていく巨人達の中で、その一体だけがまだ立っていた。
血に濡れた巨体が、大きく息を吐く。
単眼がぎらりと光り、唸り声を上げた。
「まだ来るか……!」
前衛が言い放った時、ヴィレムは中型のナイフ『アディシェス』を構える。
次の瞬間、単眼巨人は地面の岩を掴み、持ち上げた。
巨腕が振り抜かれる。
岩が弾丸のように飛び、洞窟の壁を砕いた。
「危ない! みんな避けろ!」
誰かが叫ぶが、巨人は止まらない。
怒り狂ったように棍棒を振り回し、洞窟の床を叩きつける。
大暴れする単眼巨人によって、地面が揺れ、破片が飛び散った。
「しぶとい……!」
アルトが炎魔術で牽制しながら言った。
フィリアが息を整える。
その間にエレナは詠唱を始める。
「悪しき者の盾を──」
エレナの詠唱に続き、フィリアは再び、詠唱に入った。
「輝かしき光、一瞬の閃光となりて、敵の視界を奪え──」
光が集まり始める最中、サイクロプスがその気配に気付き、顔を上げる。
エレナは邪魔させまいと、敵の防御を下げる付与魔術を発動。
「壁を……! 打ち破いてくださいまし……! ファットブルーム・フォリネ!」
敵がよろけた。
その時フィリアの詠唱も終わる。
『ルーセント!』
閃光が爆ぜる。
巨人は片手で目を覆い、体勢を崩す。
その瞬間を逃さないヴィレム。
彼は踏み込む。
同時に、横からもう一人の影……リヴァナが走った。
「任せな!」
リヴァナのカットラスが閃く。
単眼巨人の手を思いっきり切り落とす。
そして、ヴィレムの一撃。
軽やかな動きで敵の懐に潜り込み、一突きするナイフ術──
『滅閃』
彼の一撃が、単眼を貫いた。
巨人は低く唸り──
やがて、ゆっくりと崩れ落ちた。
洞窟が、重く揺れた。
巨体が倒れ込み、やがて洞窟には静寂が戻る。
「……終わった」
誰かが呟く。
「やった、やったぞ!!」
ギルド『ヴィルデ・アッフェン』のモーノが喜びの声を上げる。
そして皆が喜ぶ。
エレナはやっと終わったの一心で、フィリアに抱きついた。
「お、終わりましたわ……」
いつもより低い声で、へろへろの様子だ。
「何とか……なりましたね……」
フィリアも同じくエレナの背中を優しく摩る。
アルトも派手に魔術を使ったため、その場に一度しゃがみ大きく息を吐いた。
そして、フィリアとエレナを優しく眺めていた。
その視界の端で、リートゥが2人を見ていた。
ローブで目元は隠れている。
アルトの視線に気がついた彼女は笑い返し、視線を外した。
「……まさかね」
アルトはぽつりと呟く。
「やりましたぁ〜 この“きょじん”はたべられますぅ〜?」
戦闘では、町民たちを守り大活躍だったキナリ。
と言うよりも暴れまくって敵を物理的に撹乱していた訳だが、彼の活躍は中型の魔物との戦いになれていない、町民たちには頼りがいのある存在だった。
「坊主、こんなん食べたいのか!?」
すっかり周りと打ち解けているようだった。
加勢に来た『ダイダロス』の巨漢・イーサンとも、力比べに続き、共闘を経て仲が良くなったようだ。
リヴァナ達、待機組の『ダイダロス』が来なかったらどうした事だっただろう。
「リヴァナ様、加勢に、フィーを助けてくださってありがとうございました」
ヴィレムは彼女に礼を言う。いつも通りの穏やかな笑みで。
「先程は驚きました。まさか、単眼巨人の腕を切り落とすほどの剣才だったとは」
ヴィレムはにこにこと笑顔を向けながら、彼女を褒めた。
「やめなよ。あたしは自警団のリーダーなんだから、このくらい普通だ」
リヴァナは少し恥ずかしそうだった。
照れくさく視線を外して謙遜した。
「所でここになんでこんなに人が集まってるんだ」
そう話していると、モーノがやってきて。
「ここにお宝があるんじゃないかと睨んできた。そしたら、単眼巨人が大量発生していて、探索しようにもできなくてな」
リヴァナは腰に手を当て、顎に手を置く。
「ここは確かに、それっぽい場所だが……ただの海賊のアジトだった場所だ。お宝も売り払って無かったはずだが」
周りが静まり返った。
ある意味、最後の単眼巨人が倒れた後の静けさよりも勝っているかもしれない。
つまり、沈黙。
『えーーーーーーー!????』
皆が一斉に落胆した。
「そんな言われてもな。……取り残しはあるかもしれない。用心して探索しな!」
リヴァナは少々面倒くさそうに言った。
「ま、まぁ……この島で1番目立つ洞窟でしたから……みんな気になりますよね……あはは……」
流石にフィリアも苦笑いだった。
「少年。あんた、いい腕してるね。特に魔術のセンスがある」
リヴァナはフィリアの頭を、帽子の上から撫でた。
……少しだけ、くすぐったい。
褒められたのが純粋に嬉しかった。
「ありがとうございます!」
フィリアが笑うと、リヴァナは笑って話し出す。
「あんた達にいいもの見せてあげるよ」
リヴァナは洞窟の最奥へとフィリアたちを案内した。
◇
最奥には、海賊旗が壁に貼りつけてあった。
『ここは海賊のアジトだった』それが分かるような部屋だ。
空っぽの宝箱、樽、酒瓶。
そして、航海図。
「絵本で見た事ある光景です……!」
フィリアは目を輝かせながら周りを見渡した。
「ここはな、あたしの祖母の部屋だったんだ」
船に乗る前に、彼女の祖母が海賊だったことは聞いていた。
まさか離島に祖母の部屋があるとは、一行は思わなかった。
「ほとんどのものは、グランツにあるけどね。ほとんど空だけど、祖母や乗船員達のために、物を残してたんだ。良かったら見ていってくれ。」
フィリアは興味津々。
特に何も無い宝箱を覗いては嬉しそうに。
絵本で見た事あるような光景を直に体験できることに喜びを感じていた。
そして1つ本を見つける。
それは日記だった。
「これ……見てもいいでしょうか」
フィリアが問うと、リヴァナは頷いた。
その中には、航海記らしきものが記されている。
フィリアは楽しそうに読み始める。
そして、思った。
「リヴァナさんのお祖母様は……悪い海賊さんではないんですね。優しい方だったんですね」
フィリアは彼女の顔を見て問いかけた。
「そうだね。最初は海域を荒らしたりしてたって話だけど、この町がえらく気に入ったらしくてね。海が近いこの町を、他の海賊から守る事で、グランツに受け入れられた海賊なんだ。だから私はおばあちゃんに憧れてる」
祖母のことを話すリヴァナの顔は、まるで少年のように楽しそうだった。
そして、ページをめくるとセピア色の写真が出てきた。
海賊帽をかぶった女性と、少し濃い髪色をした白衣を着た女性。
そして、真ん中には若い娘が赤子を抱えている。
「これは……」
リヴァナは少し恥ずかしそうだった。
「それ、あたしの母さんと、あたしが赤ん坊だった頃のやつだ」
「では、この方たちは……お祖母様のお母様と……」
「当時、あたしを取り上げてくれた医者だよ。女性の先生でね、おばあちゃんの海賊団の船医だった人。腕がいい人だったから、おばあちゃんはあえて船から下ろしたらしい。」
それは、彼女を海賊というレッテルから守るため。
人の命を扱う尊い人物を守るためだった。
「この方は今は……?」
「もういないよ。でも、あの崖の上の診療所。あの診療所は、元々この医者の診療所だったんだ」
「レイ先生の診療所ですか?」
「そうだよ。あの人がいなくなって、彼女が自分の診療所として建て直したんだ。関係はよく知らない。だけど、10代半ばくらいだろうか。貿易船に忍び込んで、この町にやってきて……あの先生と共に暮らすようになったらしい。」
「そうなんですね。」
リヴァナは、机に指を滑らせる。
何年も放置されたその場所は、整理はされていないが、時が止まったような風景だった。
当然埃は積もっている。
リヴァナは、懐かしさに溢れるその場所を優しい顔で見渡していた。
「少年。あんたに敬意を評して、気に入るものがあったら持っていくといい。物はあんまりないけど」
リヴァナはそう答えた。
だがフィリアは。
「……お気持ちは嬉しいんですが、皆さんがいたからあの場は乗り越えられました。だから、ボクだけはちょっと……」
リヴァナは目を丸くして、そして数秒後に笑いだした。
「あはは。あんたやっぱり変わってるよ。普通なら遠慮なく貰っていくだろう! 」
「……でも、ここはリヴァナさんやお祖母様の思い出の場所なんですよね。それを頂くなんて……気が引けます。その……ボクには、ここがリヴァナさんの宝箱みたいに感じて」
フィリアは少し恥ずかしそうに答えた。
そんな姿をヴィレムは後ろから見ていた。
彼女の肩に手を添えて。
「フィーらしいですね」
ヴィレムはフィリアに笑いかける。
フィリアは浮世離れしているが、繊細だ。
感覚も、心も、物の見方も。
決して気が弱いわけではない。
ただ、人の思いを大切に思える、15歳の少女なのだ。
「この部屋を見せてくれたのが何よりです。リヴァナさん、素敵な場所を教えてくださってありがとうございます」
「そうかい。でも……言いにくいんだが……あの先生に付けられた借金はどうするんだい?」
図星の質問。
一行は黙りこける
やがてリヴァナが肩をすくめる。
「……まあ、期待しすぎたかもね」
苦笑混じりにそう言うと、部屋を見渡した。
「せっかくここまで来たんだ。奥も一応見ておこうか」
フィリアは小さく頷いた。
「はい。何か手がかりだけでも見つかるかもしれませんし」
二人は棚や箱を軽く確認していく。
古びた道具や、割れた瓶、錆びた刃物。
どれも長い年月を感じさせるものばかり。
もちろん例の『不死身の石』は見つからない。
やがてフィリアは日記をそっと机に戻した。
「……やっぱり、お宝はなさそうですね」
「まあね」
リヴァナは苦笑する。
その時だった。
洞窟の奥から、低く響く音がした。
ゴォン……と、
まるで遠くの海が唸るような音。
フィリアが顔を上げる。
「……今のは、波の音でしょうか」
リヴァナが小さく首を振った。
ぽたりと、どこからか水滴の音がした。
フィリアはふと足元を見る。
さっきまで乾いていた石の床に、
薄く水が広がっていた。
「……?」
洞窟の奥から、またぽたりと水が落ちる。
そして、洞窟の奥から風が吹き抜けた。
湿った、冷たい風。
「ひゃあ」
怖いものが苦手なエレナが悪寒を走らせる。
リヴァナは眉をひそめた。
「……変だな」
「どうしたんですか?」
「この洞窟、こんな風入ってくる構造じゃない」
何やら不気味な揺れや風に、二人は顔を見合わせた。
「……長居はやめておこうか」
リヴァナが静かに言う。
「この洞窟、昔から崩れやすい場所もあるんだ。さっきの戦いで揺れてるかもしれないしね」
フィリアも頷いた。
「そうですね……」
名残惜しそうに部屋を見回し、机の上の日記に軽く視線を落とす。
だが、これ以上は何も見つからない気がした。
「それにおばあちゃんが言っていた。宝は受け継いだ方が価値があるって」
「……?」
「悪いね、考えさせて。さあ行こう」
一行は洞窟を後にする。
外に出ると、潮の匂いを含んだ風が頬を撫でた。
海は穏やかで、つい先ほどの不気味な音が嘘のようだった。
「……まあ、ここには宝は無かったけどさ」
リヴァナが苦笑する。
「冒険ってのは、こういう空振りも多いもんだ」
フィリアも小さく笑った。
「でも、素敵な場所でした」
激戦の疲れを癒すために、出航は明日になると言伝をし、リヴァナは船へと戻って行った。
フィリア達は、とりあえず野営地に戻り、今後の予定を決めることにした。
