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2章「花の街」

フィリア達は旅立った。そして、理由は分かっていないが暴動を引き起こす原因になってしまったエレナは、突然ではあるが、街を出る決断をする。これは、フィリア達とエレナを見守る者の話。


 突然街を出ると宣言したエレナ。そんな彼女が乗る馬車を見送りながら、話すのはエレナの両親ウェルトン夫妻。愛娘の旅立ちに彼らが抱く思いは―

「スクルド……本当に良いのかい?」
「きっと、あの人なら背中を押すと思う。だからいいの。ねぇあなた、私はあの人みたいになれてるかしら?」
「そうだね。エイルさん達ならそうする。天国で……私たちの娘をどうか見守っていてください」

 エレナには『あの人』が誰なのかは分からない。それでも、ウェルトン夫妻の心の中でその人は生き続ける。

「ねぇ貴方、エレナ……そっくりだと思わない?」
「僕はスクルドにと似たと思うけど」
「私が育ての親なのだから、多少は似るわよ! ……人目を気にするのはあの子特有だけど、誰かが傷つくのは見たくないって……そんな慈愛に満ちていて、大切な人の為に身を挺する勇気があるのは……エイル譲りだと思うわ」

 そして、そんな姿を見守るリィもまた、

「兄様、私を見送った時どんな気持ちだったのでしょうか。貴方は寡黙で、何を考えいるか分からなかった。でも……それでも、同族を大切に思っている、憧れの人です。私もまた……兄様のように強くなって、祖国に戻って見せます。……今は私を向かい入れてくれた、この街フルールの為に、精進致します」

 そう心の中で誓った。すると子連れの親子が近寄って来た。

「リィおねえちゃん、エレナおねえちゃんは?」
「……エレナは旅に出ました。この街の為に、勉強してくるんだって」
「そっか…… 私、エレナおねえちゃんが気にしすぎて、お外に出ちゃったと思って心配だったの」
 少女は心配そうな顔で、リィにエレナのことを聞いてきた。
 実際、エレナは自身のことを気にしていた。だからこそ決断に至れたのも間違いない。
「そうなのかもしれません。でも、エレナはこの街が大好きです。だから、壊れた建物は直して、悪い人は捕まえて、いつも通りのこの街に、エレナが帰って来れるようにしようね」
 リィは少女の頭を撫でて言った。

 エレナは気にしすぎなところがあった。
 同世代の人に近寄り難い。きっと皆、気を使うから。そう言っていたが、実際それは違う。リィは知っていた。
街の人がエレナを大切に思っているからこそ、感謝しているからこそ、そうしていることを。
……まるで、エレナという存在に感謝するように。
 事情は知らない。彼女がこの街に引き止めてくれたから、大切な人と思えるから、そんなことは知らない。

 ……自分にだって、言えないことはあった。それでも自分を引き止めて、友人だと言ってくれて。エレナの両親もとても良い人達で。

 だから、彼女が愛したこの街を、帰ってくるまで見守りたい。大切な人が、笑って帰って来れるように。
 彼女がそうしてきたように―

 黄昏れてエレナのことを考えていたリィ。十二騎士〈パラディオン〉のナモは彼女に声をかけた。

「リィさん、貴方のことウェルトンさんから聞きました。他国から来てくださったのにも関わらず、我が国のこの街にまで、思いを寄せてくださって、大変感謝致します」
「いいえ、それ程にこの街が素敵なところだからこそ……ですよ。せめて私がここにいる間は、この街の為に助力出来たらと思います」
「貴方はとても、優しい方ですね。と、リィさんがレシピを提供してくださった酒場なのですが…… この街の住民の方に勧めていただきまして……!」
ナモは嬉しそうに酒場の話をしていた。リィも、もしかして自分がレシピを提供した料理を食べて貰えたのかと少しだけドキドキしながら、問い返す。
「えっと、お口に合いましたか?」
「それはもう!……初めて東の料理を食べたのですが……美味しくて涙が…… 王都に戻った時、他の騎士にも紹介しますね。と、フィリア様もお気に召された話は……」
「はい。フィリアさんは、餃子と天津飯、醤油を気に入ってくださいましたけども」
ナモは張り切って、
「その3品を、機会あれば王妃様にご賞味頂きたいなと……!」
「おっ……王妃様!?!?」
「ふふ……王妃様は好奇心旺盛な方でいらっしゃいます。広いお心の持ち主で、他文化にも興味があらせられる方なのです。ですからきっと喜びます。フィリア様がお気に召したなら尚更です」
「なんだか、恐れ多いですが……ナモ様にも、フィリアさんにも気に入っていたたけて、王妃様にも紹介いただけるなんて嬉しい限りです」
「食の妙味は、共にしてこそ極まる!ですからね」

 『一箸を分かつは、一縁を結ぶ』リィの脳裏に過ぎる言葉。それは昔、家族から聞いた言葉。一膳の料理を分け合えば、人の縁になる。そんな意味が込められた諺。……リィの故郷に伝わる言葉だった。

「ふふ……そうですね。東の国争いが耐えず、外交がありませんが、…………いつか、西の国とも良い関係が築けますよう、私は願っています」

「私も願っています。それが、食べ物からだったら、幸せですね。リィさん、……この街の行く末、騎士として見届けさせていただきます。勿論、私個人も復興のお手伝いを!」
「ありがとうございます」

 本来、関わることのなかった2人。エレナがいたから花の街に留まることになったリィ。フィリアとエレナが、知り合ったからこそ、2点は交わる。
 残された物の、不思議な縁の話。