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1章「精霊の森」

ルボワと2人で仲良く眠りについたフィリア。彼女はルボワの夢を見た。想像もできない永い年月を1人で過ごしてきた少女。それがルボワだと悟った。
夜が明け、身支度をして朝食に向かう。


 朝食は昨日に採取した木の実やハーブを使ったサンドイッチとスープ。ルボワの大好きな木の実である酸塊を砂糖で煮詰めて作ったジャムが準備されていた。アルトはヴィレムの手伝いをしていたらしく、既に席に着いていた。

「おはようございます、アルトさん。お湯、ありがとうございました」
「2人ともおはよう。いいんだ、魔術はこう有効活用してかないとね」
「ふふ気持ちよかったです。そういやキナリは……」
フィリアは辺りを見渡すがキナリの姿はなかった。

「あぁ朝の素振りって言って斧を振り回しに行ったよ。そろそろ戻ってくると思うけど……」
「えっ!? まさか木を切りに行ってないよね⁉︎⁉︎」
ルボワはぎょっとした声色で驚いた。そして、キナリに疑いをかけていた。

「大丈夫なはずだよ。出る前に木は絶対切っちゃダメって言って落ちたから…… たぶん……」
「たぶん……」

 そうこうしているうちにキナリが帰ってくる。なんだかよく分からないが、ずぶ濡れだった。

「⁉︎⁉︎ キナリ様、どうして濡れて……⁉︎」
今度はヴィレムが驚いていた。

「えっと~、おのをふっていたら、おいしそうな''おさかな''がみえたんです~。あせもかいていたのでかわにとびこみましたぁ~」
「……えっとお魚は……?」
流石にヴィレムも動揺を隠せなかった。キナリは突拍子も無いことを平然とするため、普段は冷静なヴィレムも驚かされてばかりだ。

「あは~ にげられました~ おどろかせちゃったみたいです~」
アルトは思わず『逃げたんだ……』と口に出していた。

「えっと、風邪引くといけないから服脱いで。乾かすから」
「わぁっ~ ありがとうございます~」

「あっ!下着は脱がないでね……女性がいるからね……」
ほっとけば大惨事を起こしかねないキナリ。アルトはファインプレーで先手を打った。

「濡れた服は焚き火で乾かして、朝食にしましょう。服を乾かしたら出発しますよ」
ヴィレムはアルトがキナリの面倒を見ているうちに、食卓を整えた。

 フィリアは魔術で鞄を取り出した。水色のトランクバッグ。改良された魔法道具の一種で、収納力は抜群だ。そこから、タオルを引っ張り出した。
「キナリさん、タオル使ってください。食事の間はこれを。体冷えますから……」
「わぁ〜あなたはやさしいですね~ ありがとうございます~」



 キナリずぶ濡れ事件により、食事の前に一同は驚かされたが、2人のファインプレーにより食事にありつく。
フィリアとヴィレム、大人数で食べる楽しい食事に喜ぶルボワ、ヴィレムの料理を気に入ったアルト、パンツ一丁でフィリアから借りたタオルを羽織るキナリ。

 にこにこしながらサンドイッチを頬張るルボワはとても幸せそうに見えた。そんなルボワを嬉しそうに眺めるフィリアの姿を、穏やかな笑顔で見守るのがヴィレム。

「甘酸っぱい! これがあの木の実なの?」

 ルボワの好物の「酸塊」。酸味が強めの赤色や黒色などの小粒の木の実だ。瑞々しく半透明でビーズや宝石ように美しい特徴がある。ルボワは上級精霊のため食事は必要無い。然しながら食べることは出来るため、口が寂しいと感じた時は酸塊を食べているらしい。

「そうですよ。先日教えて頂いた酸塊を砂糖で煮詰めてジャムにしてみました」
「あんなに酸っぱいのに、こんなに甘くなるなんて。ヴィレムってすごいね」
「身に余るお言葉です。ルボワ様は赤色と黒色、どちら木の実はどちらがお好みですか?」
「気分で選んでるなぁ~ どっちも好きだよ」

「そうなのですね、赤色の方はあまり料理では使われませんが、黒色の方はこうしてジャムや酒を加えて飲み物にされる事が多い木の実なんですよ」
ヴィレムは料理をすることも、メニューを考えることも好きだ。なんだか楽しそうだ。

「へぇ~ 酸塊の飲み物かぁ~ 気になるなぁ~ そのまますり潰しちゃダメだよね」
「はい。とても酸っぱくて喉に支障をきたすかと……」

 するとフィリアはヴィレムに問いかけた。
「そういえば、ジャムにするまでに酸塊の木の実はそのまま食べられたの?」
「はい。たまたま黒い方も見かけましたので両方、食べ比べました。」
「そっか、酸塊は大丈夫なんだね! ヴィレム、酸っぱいの食べると……」
ヴィレムはフィリアの口を人指し指で止めた。口止めされたのだ。

「フィー、人の弱みを無闇に話してはいけませんよ」
「わっごめん……気をつける」
ヴィレムは笑顔でよろしいと答え、スープを1口飲んだ。彼は基本的に自分を肯定してくれるからこそ、反対意見や口止めされるとドキッとする。

「ヴィレム君以外。酸っぱいの苦手なの?」
「そうですね……私は料理をしますので、絶対的に拒否している訳ではありませんが、極度に酸っぱいと驚きますね」
そうしているうちに、キナリは自分の食事を平らげ『ごちそうさまです~』と手を合わせていた。



 一同は食事を終え、食器を片付け出発する準備を始めた。アルトはキナリがずぶ濡れにした服を乾かす。フィリアはアルトに食器も乾かしてもらい、イレギュラーとはいえ更にキナリの服を乾かすことを不憫に思い、彼を休ませてから出発することを提案した。

 そしてその間に、昨晩ルボワと見つけた写真の話をすることにした。

「キナリさん、この写真に覚えはありませんか? 昨晩部屋の片付けをしていたら出てきたんです」
「ん~~」
キナリは悩んでいるようだった。本当に悩んでいるかは謎。

「おや、セピア色の写真となりますと、とても年季が入ったものに見えますが……」
「そうだね。30年ほど前から北の国の科学と魔術を取り入れた光像写真が出回るようになったから、それなりに昔の物だと思う。」
「ん~~」
ヴィレム達が討論する間も、キナリは考え続けている。

「でもおかしくないか……? キナリ君は姿は子供……」
「わからないです~」

 キナリは散々悩んだ末に分からないと答えた。結構長く考えている気もするが彼なりに頭を使ったのだろう。

「この写真が誰かとか置いといて、キナリ君って一体何歳なの⁉︎」
「わかりません~」

「あの、この写真なんですけど……こちらの男性、何処かキナリに似ている気がするんです。表情とかはさておき、骨格と言うか……何処と無く雰囲気になんですけど……」
フィリアは確信は持てないが、恐る恐る自分の意見を述べた。

「あっ! そうそう、昨日の夜にその話してたんだよね。わたしはこの人と会ったことは無いけど、フィリアが言いたいことは何となく分かるんだ。3人はどう思う?」
ルボワは男3人に問いかけた。

「……明らかに歳は違いますよね。見たところ20代半ばくらいで……セピア調ですが、キナリ様とは髪色は異なるようですね。彼だとは断定出来ませんが……キナリ様に似た雰囲気は気になりますね。可能性は捨てきれないと思います」
ヴィレムが答えた。

「そうだなぁ、僕も同じ意見。通常なら人の姿は老いとともに変化するはずだし……歳を取らない一族もいるけど、特徴的に違う気がするな。……姿を変えたとすると……若返る魔術を使ったならそれは禁忌、容姿を変えるなら問題ないけど…… 髪色は変えたのかな?」
流石はアルトだ。魔術や医学的な知識から意見を述べてくれた。

「そういえば、アルトさんは髪色が白に毛先が紅色ですね。地毛には見えませんが……」
「ご名答。脱いたんだ、一部の髪の色素」
「じゃあ元の色は白じゃないんだ。でもどうして?」
ルボワは気になってアルトに問いかける。

「えっとね、僕の元の髪色すっごく目立つんだ。それで、幼少期は家族に迷惑をかけたし、目立ってハンターに狙われたことあるし、面倒でやっちゃった。魔術で薬剤調合してできるんだよ」
「へぇ」

「だから分かる、キナリ君もフィリアさんも自然に抜けた色か地毛だって。……キナリ君は思うところあるかな」
やっぱり、キナリに関しては不可解な点が残るようだった。

「わからないです~ でも''ふしぎ''ですね。じふんかもっていわれたら、''そうかも''~っていいたくなるかんじです~」
キナリは雰囲気も喋り方もふわふわ、へにゃへにゃとしているが考え方もゆるゆるなようだ……

「キナリさん、こちらの女性は分からない……ですよね」
「はい~」
「うぅ……」

 フィリアは唸り声を上げた。隣のヴィレムはフィリアの頭を帽子の上からポンポンと優しく叩き宥める。

「キナリ様に関しては不明な点が多いです。可能性のひとつとしてこちらの写真も参考に情報を集めましょう」

 一行は謎の写真について方針を固め、お茶を飲んでから出発した。キナリの謎は深まる一方だった。