1章「精霊の森」
第8話 「 森に縛られし精霊 - A lonelyness little spirit girl. - 」
キナリの小屋で一晩を明かすことになった一行。フィリアとルボワは部屋の片付けをしていると、1つの写真を見つける。
ヴィレム達は食卓を片付け、それぞれ床に就く。
男子3人と別室で休むことになったフィリアとルボワ。
完全に女子部屋になったため、フィリアは寝巻きに着替えて眠ることにした。
白色の質素なネグリジェ。胸元には紐のリボンが着いている。室内で休めるため、いつも束ねて帽子で隠している髪は解いている。
「こうして見ると、フィリアって本当に女の子なんだね。髪すごく綺麗だなぁ。触ってもいいかな」
ルボワは興味ありげにフィリアを眺めている。
「えっうん……良いよ。なんか恥ずかしいな……」
フィリアは基本的に男性として振舞っていたため、慣れない体験に恥ずかしさを覚えていた。
白銀の絹糸のような髪。毛先に向かって水色に変わる空のような髪色。ルボワは目を輝かせながらフィリアの髪を触っていた。
「すごく綺麗……! お空みたい……ふわふわする!! ずっと触っていたくなる髪だよ~」
ルボワはずっとフィリアの髪を触っていた。そして三つ編みをするなり、フィリアのふわふわな髪を堪能していた。
「ルボワの髪も真っ直ぐでさらさらしてて憧れるなぁ」
フィリアの髪は毛先に向かって程々に癖のある毛だった。その為、直毛に憧れがあったのだ。
「ほんと? 嬉しいなぁ。わたしも今日は、フィリアみたいに髪を解いて寝ようかな」
そう言うなり、ルボワは花形の髪飾りを取って頭を横に振った。いつもは下寄りのツインテールだが、解くと膝上くらいのとても長く綺麗な髪だった。
「思ったより長い髪だったんだね。いいなぁ……癖がなかったらボクもそのくらい伸ばしてみたかった……」
「えへ、ありがとう! でもフィリアのふわふわな髪も憧れちゃうなぁ、わたし真っ直ぐすぎて癖つかないんだもん。いいなぁ、お姫様みたい……!」
「ふふ……ありがとうルボワ。そう言って貰えたらボクも嬉しい。特にね、この髪色はとても気に入ってるんだ。」
「また、こうして休む時は、その素敵な髪を見せてね。次はフィリアの髪を可愛くしたい! そういうのやってみたいな〜 女の子っぽくて憧れちゃう!」
「うん。もちろん!」
2人は盛り上がっていた。そしてセミダブルのベッドは、案外小柄なふたりにはちょうどさなサイズで、身を寄せてベッドに入り、明かりを消した。
「えへへ。わたし、誰かとベッド眠るなんて……マッシュ達意外としたことないよ」
ルボワは遠足中の心躍る子供のように嬉しそうにしていた。
「ボクも久々です。子供の頃はお母様と寝れる日が嬉しかったのを思い出すなぁ。今となってはそんな歳じゃないし……」
「暖かくていいな。なんか幸せな感じがする。」
これから眠るだけだと言うのに、不思議にも楽しい気分になる。ルボワを見ているとそんな気分になったのだ。
「ボク、外に出る機会が少なくてあまり友達がいないんです。だからこう言うの憧れるって言うか…… ふふ……なんかボクも楽しくなってきた……かも……!」
「寝るだけなのにね、なんだろう。ふふ」
2人は顔を合わせて笑い合った。
「ルボワ、貴方のお話を聞かせてください。この楽しい気持ちのまま眠りたいなって」
「いいよ、もちろん。えっとね……」
気がつけば2人は眠りについていた。
*
その晩、フィリアは夢を見た。1人の小さな少女の夢。
エルフのように尖った耳、腰あたりまで伸ばした若草色の長髪の少女。かなり小柄で、4~5歳くらいの印象を受ける。
森の奥深く、優しげな木漏れ日を受けながら花畑で眠っている。
目を覚まし花で冠を作る。その冠は行き場がなく、やがて自分の頭の上に乗せられた。
場面が変わる。
木の上から人を観察している。興味を持って人前に立つが、すり抜けられ、気が付かれない。……結果少女はぽつりと1人残される。
その人間を追っていくと、道の途中に枯れた草花と、焼かれた木がある。少女は緑色の光を掌から発生させ草木に与える。すると草木は元気を取り戻す。
森を守り管理する者。あぁ、彼女はルボワだ。
草木の面倒を見たことによって、追っていた人は何処かへと行ってしまう。完全に見失った。
すると足元に水玉模様の傘が見える。マッシュ族だ。
以降彼女はマッシュ達と戯れ、踊ったり、森に入った人間を観察したりしていた。
また場面が変わる。木陰から1人の少年の様子を観察するルボワ。森の中にある小さな集落に住む少年だ。巻を割ったり、魚を捕まえたり、森を駆け回ったりしている。もちろんルボワの姿は見えない。
気がつけば青年になっており、同世代の女性と巡り会い結ばれる。そして時は巡りその青年は年を老いていく。やがてその老人は亡くなる。
ルボワはその少年と話したことない。姿が見えないから当然だ。初めて見つけた時は自分と背丈が変わらない子供だった。しかし今はもういない。
また1人になった。
『さみしい』
その一言が胸に響いた―
*
フィリアは目を覚ます。何時くらいだろうか、まだ外は暗い。ルボワは眠っていたが、涙を浮かべていた。夢の中で泣いているのだろうか。フィリアはルボワの涙を拭くと、再び身を寄せて目を閉じた。
そして悟った。変わらぬ姿のまま、永き年月を1人で過ごしてきたことに。長寿であり、姿の変化もない、そして姿が見えない。
……彼女は独りだ。
フィリアは心を痛めた。見た目も人との交流も少ないために想像以上に子供らしくも見える彼女に。そしてルボワ手を両手で包む見込むように取って再び眠りについた。
◇
翌日。
フィリアは目を覚ますと、目の前に少女の顔が見える。
ルボワだ。どうやらフィリアより先に目覚めたらしく、笑顔で寝顔を眺めていたらしい。
「えへ、おはよう。フィリア」
「わっ……びっくりした……おはよう、ルボワ」
「フィリア。手、暖かったよ」
「手……?」
昨晩、1度目覚めた時に手を取って、眠り続けていたらしい。
「あっごめんなさい。動けなかったよね……」
「違うよ、なんか仲が良い友達みたいでいいなって。嬉しくてずっとフィリア眺めてたんだ」
ルボワは朝からご機嫌の様子だ。
するとノック音と声がかかる。ヴィレムだ。
「おふたりともお目覚めですか?」
フィリアはドアを開ける。目の前には既に身支度を整えたヴィレムが立っていた。少しだけ湯気が立っている桶を持っている。
「おはようございます、フィー」
「おはよう、ヴィレム」
「昨晩はよく眠れましたか? とても楽しそうな声が聞こえました」
ヴィレムは穏やかな笑みで問いかけた。
「ふふ、フィリアとずっとお話してたんだよね。楽しくって気がついたら寝てたけど」
フィリアの後ろからひょこっと顔を出したルボワ。『おはよう!』とヴィレムに挨拶をした。
「それは良かったです。フィーは身支度を整えてからいらしてください。もうすぐ朝食が完成しますので。あとこちらは、アルトさんから。洗顔用の水を温めてくださいました。とても気持ちいいですよ、お使いください」
「うん。ヴィレム、いつもありがとう」
フィリアはヴィレムに礼を言うと、ヴィレムはにこっと笑顔で返し朝食を作りに戻って行った。
「そのままじゃだめなの?」
ルボワは問いかけてきた。
「うん。髪色は目立つし、我ながら小柄だから……護身のためにも髪は隠して男装してるんだ。ヴィレムはちょっと過保護な気がするけど……はは……」
フィリアは顔を洗いながらそう答えた。
するとルボワは、お互いに髪を整え合わないか?と持ちかけてきた。いつもと変わらない髪型ではあるが髪を整え、2人は着替えてから、ヴィレムの元へと向かった。