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3章「白濤の港町」

フィリア達は新たな仲間エレナを迎え、精霊の森〈フォレルの森〉の南に位置する『スコルチア林道』を移動中。
中間地点までは馬車で穏やかな旅ができそうだ。
一行は各々、会話を楽しむ。


 花の街〈フルール〉と港町〈グランツ〉を繋ぐ道・スコルチア林道。
 フィリア達は、花の街フルールの町長の計らいで、南東にある団結の街〈クロスレーデ〉行きの馬車に乗せてもらい、林道の半分は馬車での移動となった。

 エレナはフィリアと話したかったようで、呼び捨てで呼び合うことが決まってから、ずっと話し続けている。
 エレナに警戒心を抱いているヴィレムは、休みながらも聞き耳を立てている。
 アルトとキナリは穏やかな時間の流れに身を任せ、眠っているようだ。

わたくし、ずっとフィリアとお話したかったのですわ……!」
「そんなにです?」
「ええ! 最初は優しい男の子だと思って…… その、とてもときめいてしまって…… いじらしくて、つい気になってしまいましたわ」
「エレナは、男の人を観察するのが好きって聞きました」
「えっ!?!?」

 エレナは焦り散らかしていた。

「えっと、リィさんから……でも人を見る目や気遣いできるとも」
「そ、そうですの……びっくりしましたわ」
「ふふ、だから……ボクが女性なのは気が付いてるかなと思っていましたし、ばれたらどうしようって。時々、ヴィレムが目を光らせてて」
「確かに柔らかい印象…………と、今思い返せば女性特有の甘い香りがしていましたわね。もう夢中すぎて、ときめいて気が付けませんでしたわ」
「そっか。ボクが女性だと知って、ショックじゃ無かったですか?」
「いいえ!? 男性にしても女性にしても、こんなに可愛らしい方は初めてでしたわ……! ですから、女性ならば女性として……美味しいところが……うふふ」

 エレナは何やら考えているようだった。後ろからヴィレムが目を光らせていた。
 彼はエレナが余計な事を吹き込まないか、既に警戒していたのだ。
 女性としての嗜みなどであれば、社交に必要ではあるが、エレナのストーカー気質を気にしているようだった。

「……そう言えば、馬車で移動してるけど……ルボワ元気かな」
 フィリアは林道によって1本筋に続く青空を眺めながらぼやいた。

「ルボワさん……ですの?」
「うん。ルボワはね、精霊の森〈フォレルの森〉の精霊なんだ。エレナ達と会う前に、1章に旅をしてたんだ。……でもね、彼女は森から外に出られなくって」
「何だか、可哀想な方ですわね。つまりは、花の街フルールに辿り着く前に、お別れしてしまったのですわね」
「……そうなんだ。だけど、また精霊の森フォレルの森に来た時は会おうねって」
わたくし、精霊についてはよく分からないのですが……この森にいるのであれば、来てくれるのでは?」
「多分呼んだら来てくれそうな気もするけど……この森は広いから、近くにいないと探知できなくて」
 フィリアはしょんぼりしていた。
 するとヴィレムが後ろから声をかけてきた。

「フィー。ルボワ様ならきっと貴方を見つけて来てくださいますよ。馬車を降りたら呼びかけてみては?」
「そうですね! あとは……マッシュさん達に聞いてみるのもありかもしれません」

「マッシュ……? ですの?」
エレナはマッシュ族について知らなさそうだった。
「マッシュ族ですよ。キノコの帽子をかぶった小さな精霊さんです。どうやら、心が清らかな方や幼い子供にしか見えない……らしいのですが、森に隠れて暮らしているので、もしかしたら何か知ってるかもしれません」
「キノコ……? 何だか想像出来ませんわ」
「マッシュさんはとても可愛らしい方たちですよ! 言葉が分からないのですが、草花が大好きで、キノコと違ってお日様の光が好きなんです。つい、ぎゅっとしたくなるんです…… ふふ」

フィリアは楽しそうに、マッシュとの思い出を振り返っていた。そんな和やかな雰囲気のフィリアを、ヴィレムもまたフィリアとマッシュの触れ合いを思い出して笑っていた。

わたくしにも見えるのでしょうか……でもとても気になりますわ!」
「きっと、可愛いものが好きなエレナは一目惚れだと思うよ」

 フィリアはにこやかにエレナを見つめて訴えかけてきた。
 ……どちらかと言うと、子供っぽい可愛らしさを持っている、フィリアが可愛い。
 つい撫でてしまいたい……そんな思いが心の中で爆発していた。
 気がつけばまた『……撫でたい……かわいい』と、本音がダダ漏れで、ヴィレムが話を切り出してきた。
 と言うより、エレナのやましい気持ちを後ろから刺すように阻止した。

「エレナ様も休めるうちに休んだ方が良いですよ。昨晩は遅かったのでは?」
「よ、よく分かりましたわね。ずっと考え事をしていたので、あまり寝ていませんでしたわ。本当はフィリアと沢山お話したいですが、少し休みましょう」

 一行は休みながら、林道を進む。

 夕方頃、馬車の主は小屋を見つける。
 これは順調に林道を進めている証拠。

 スコルチア林道には3か所、休憩や旅人の宿泊用の小屋がある。
 2ヶ所目は港町グランツ団結の街クロスレーデの別れ道にある。
 そこまでは、およそ2日から3日ほど。
 まずは第2休憩所を目指し馬車の旅をする事になる。

 フィリア達は順調に進み、 1日目は休憩所で、2日目は野宿。
 3日目は夕方頃に第2休憩所に辿り着くことができた。

 4日目の朝、一行は馬車の運転手と別れて、徒歩の旅へと戻る。
 第2休憩所からは、歩いて4日程で港町グランツに到着予定。
 2日目には第3休憩所に辿り着けるだろう。

 フィリア達は、精霊の森フォレルの森の澄んだ空気を堪能しつつ、先に進んだ。
 フィリアは時々、歩きながら神経を研ぎ澄ませていた。
 と言うのも、ルボワに会いたいが彼女の気配を感じないからだった。

「ルボワいないなぁ」

 フィリアはしょんぼりとしていた。
 するとアルトが、

「何だか……気のせいかもしれないけど、動物の気配が少ない気がする」

 森は静かだった。
 静かすぎるほどに。

「え?」
「いつもなら、野鳥や小道に小動物がいるんだけど…… 花の街フルールから出た時から、あまり見かけなくて。気の所為で無ければ、馬車を引いていた馬も少し落ち着きが無かったような気がする」

 アルトは空を見上げ優しく目を閉じる。
 そして、耳を澄ませながら何かを感じ取るような仕草をする。
 彼の色素の抜けた透けた白髪と、色白な肌。
 エレナはアルトの横顔に見入っており、森の異変よりも彼にときめいていた。

「私には分かりませんが…… どこか緊迫したような気配は感じますね」

 ヴィレムがそう言うと、アルトは目を開き、振り向いた。
 その時、エレナと目が合って『?』と反応を示したが、アルトはエレナが彼な横顔にうっとりしていたのは知らない。
 対してエレナは、バレたかもしれないと焦り、苦笑いをしていたが、内心で、アルトの白い髪と肌に映える、紅玉〈ルビー〉のような瞳が美しいなと、心の中で考えていた。

「ルボワの事も気になりますが……アルトさん、妹さんの所に行かなくていいのですか?」

 フィリアは心配そうに尋ねた。
 アルトには、自分より年下の妹がいる。
 脚が悪く、今は自宅で一人、森の中に残してきているのだ。

「心配だけど…… 魔物が近寄れないように対策はしてきたし……今回こそ、お医者さんを説得しないと。だからいち早く手がかりを見つけたい。本当は今にでも会いたいけど……」

 アルトは真剣な顔で答えていた。そしてヴィレムは、

「分かりました。ですが、説得……例の件。医者は目星をつけていて、既に会っていると言うことでしょうか?」
「あぁ、うん。1度会ってるけど……はぐらかされたというか……ちょっと気難しい方でね……はは……」

 アルトは苦笑いしていた。前に会った時何かあったのだろう。

「気難しい方なのであれば、何度もお願いしてみた方が良いかもしれませんね」

 ヴィレムはそう答え、一行はスコルチア林道を東に進もうとした時、ガサッと草むらが揺れた。
 すると、草むらの奥から赤い帽子がひょこりと覗いた。

「ま……マッシュさん!」

 フィリアは嬉しそうに草むらの方へと足を運んだ。
「に」
「こんにちは。貴方は会ったことがある…… マッシュさん?」
 フィリアは問い返すと、そのマッシュ族は頷いて、近くに咲いていたお花を摘んでフィリアに渡した。

「……! 貴方はブルーベルをくださった方ですね。お久しぶりです」
 フィリアに花を渡したマッシュ族は嬉しそうにその場で飛び跳ねていた。

 エレナは何か落ち着かない様子で、周りをきょろきょろと見渡して、
「あっあの…… もしかして、フィリアの前に例のマッシュ族が?」

 どうやら、エレナにはマッシュ族の姿が見えていないようだった。
 フィリアはエレナを手招きして、手を繋ぐと、エレナの前に赤い水玉の帽子をかぶった小さなマッシュ族が見えた。

「あ……あ……どうしよう……すごく可愛いですわ……」
「ふふ、でしょう? マッシュさん急に飛び出してきて……何かあったのですか?」

 エレナは目を輝かせてマッシュを見つめていた。
 フィリアはマッシュ族に問いかけると、花を摘んで渡してきたマッシュ族はしょんぼりしつつ、必死に何かを伝えようとしている。
 だがフィリアには、悲しいことがあったようにしか見えなかった。

 後ろでヴィレムが、キナリに意味が分からないかと声をかけると、キナリはいつもの調子で、
「えっと〜 “もり”のようすがおかしい…… すこし“こわい”…… “るーさん”がひっしにもりをかけまわってぇ〜 もりを“なおし”てる…… ですう?」
「えぇ…… キナリ様は言葉が分かるのですの!?」
 エレナも流石に驚いていて、一行は頷いて答えた。
「……キナリさん、『るーさん』ってルボワの事……ですか? 大変なのかな……」
「そ〜です〜 るーさん、“もり”のために“がんばってる”みたいです〜」
「マッシュさん教えてくれてありがとうございます。もし、ルボワに会ったらよろしくお伝えくださいね」

 フィリアはそう言うと、マッシュ族の帽子を撫で、立ち上がる。
 そして一行は旅路へと戻る。
 マッシュ族は小さな手を振って、フィリア達を見送った。