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3章「白濤の港町」

無事、ベレスフォード診療所での療養を終えたフィリアは多額の借金を請求された。
何とか猶予を得て、レイの頼みを聞くことになったフィリアとヴィレムは、買い出しに出ているアルトたちの帰りを待つことになった。


 精霊の森〈フォレルの森〉で毒蛇〈ヴァイパー〉に噛まれ、毒に侵されたフィリアは、数日の療養を経て、久々の湯浴みを満喫した。
 しばらくすると、買い出しに出ていた、アルト、キナリ、エレナが戻ってきたようだ。

 ノックの音がする。扉の向こうから、高い声が聞こえる。
 エレナだ。
 ヴィレムが『どうぞ』と声をかけると、扉が開く。

 エレナは一瞬にしてベッドに腰掛けくつろいでいたフィリアを見つける。

「フィリア……! 戻っていたんですわね!?」

 エレナは心配と不安、そしてフィリアの姿を目にしたことで、喜びと不安が入り交じった顔をしていた。

 フィリアが『ご心配をおかけしました』と優しげな笑みを送ると、エレナは若干目が潤みつつもそれを隠すように、フィリアに抱きついた。

「無事で、元気そうでよかったですわ……」

 いつもどこか勢いがあるエレナだったが、今回は優しくフィリアに抱きついた。
 エレナ特有の少し甘さのある花の香りがフィリアを包む。

「エレナ……もう大丈夫ですよ。心配かけてごめんなさい」

 少しだけ大袈裟な気もした。
 それでも、エレナは心からそう思ってるようだった。
 それはきっと、つい最近、何も無い日常の中で起こった非日常がよほど衝撃的だったから。
 平和で喉かな花の街〈フルール〉が暴動に巻き込まれ、親友のリィが傷付いたから。
 ……なんでも真に受けるような、彼女なりの優しさ故の行動だったのだ。

 静かな時が流れ、エレナが顔を上げる。

「本当に心配してたんですわよ。まさか、倒れるとは思ってませんでしたし、すごく顔色が悪かったから……命に関わるんじゃないかと思って……」

「ヴィレムが対処してくれて、皆がボクのために急いでくれたから、こうして無事なんですよ」

 フィリアは優しい表情で、エレナの手を取って、

「エレナは大丈夫でしたか? 足が痛そうでしたし、そんな時に毒蛇(ヴァイパー)に噛まれてしまったから……」

 フィリアがそう問い返すと、エレナはフィリアの手を握り返して、

「気合いでしたわよ! わたくしもやれば出来るって分かりましたわ!」

 エレナはいつもの調子で自分がやり切ったことを主張した。
 フィリアはいつものエレナに戻ったような気がして、思わず『ふふ……』と笑っていた。

「そうでしたわ、さっき買い出しに行った時に…… いい物を見つけたんでしたわ」

 エレナはポケットから小包を取り出してフィリアに渡す。
 フィリアはきょとんと開けていいか尋ね、小包を開けると、小さな瓶が入っていた。
 中には小さなビーズのようなものが入っていた。
 水色や青、少し曇った乳白色の小粒が詰められている。
 陽の光を受けた小さな硝子片は、海の欠片のように静かに輝いていた。

「シーグラスですわ。お土産売り場を見ていたら、見つけたのですが……どことなく色がフィリアっぽくて買ってしまいましたわ」

「これをボクに?」

 エレナはもちろんと頷く。フィリアはきらきらしたものが好きだった。
 それは育ちが良いからと言う生まれ故の趣味ではなく、純粋に、自然が生み出す美しいものを見るのが好きで、憧れがあるからだった。
 もちろん宝石や、綺麗な魔法石も好きだが、本当に純粋な気持ちで好きなのである。

 フィリアは瓶を外の光に晒すように見てみる。
 宝石とは違って、表面はさらさらしている。
 宝石ほど光はしないが、とても綺麗な丸い形をした小粒の石から放たれる、また違った光は、とても新鮮でフィリアの心を踊らせた。

「エレナ、ありがとう! 凄く嬉しいです……その、シーグラス初めて見て……完璧に磨かれてる訳じゃないのに、とても綺麗で……気に入りました」

 フィリアはとても嬉しそうだった。
 思わず、ぴょこぴょこ跳ねるような、どことなく子供っぽい仕草。
 彼女が純粋に喜んでいる時の反応だ。

「大事にしますね。ふふ……すごく綺麗……」

 そんな可愛らしいフィリアの姿を間近で見ているエレナは、気に入って貰えてよかったという気持ち、そんな姿をずっと見ていたい気持ち、もう1回抱きしめたいと言う劣情がせめぎ合っていた。
 そして、ヴィレムはフィリアが嬉しそうで何よりではあったが、危険因子であるエレナを、貼り付けたような笑みで見張っている。

 そうこうしていると、部屋に荷物を置きに行ったアルトとキナリも部屋にやってくる。
 フィリアは無事元気になったこと、そしてエレナにも話したように迷惑をかけたことを話す。
 アルトはいつも通り、爽やかに無事で何よりと微笑む。
 キナリはあんまり気にしてるようでは無かったが、そもそも彼に毒の重大さ等知る由もなかった。

 話が落ち着いた時、ヴィレムは買い出しに行ってくれたアルト達、そしてフィリアに紅茶を出す。
 そして、例の話をする。
 そう、レイの話……フィリアの治療費の。

 彼女の腕は確かで、フィリアも全快したが、高額の医療費を請求され、数日以内に支払わなければならないこと。
 フィリアの身分から、お金は準備できるが、医療費として必要な事を話せばフィリアは旅を続けられなくなるかもしれないという事。
 皆が静まる中、最初に話したのはアルトだった。

「あ〜…………うん…………あの人なら何となく分かる気がするよ。こうなる事を予測できたわけじゃないけど。」
「アルトさんは、レイ先生と何度か会っているんですか?」

 フィリアはアルトに問うと、
「2回かな? メル……妹の脚の件で2回とも会いに行ってるんだけど、断られちゃってね…… 連れて来いって言われてるんだけど、歩けないから交渉したり、ちょっと気難しい方だから、様子を見に行ったりね。僕も医療系の魔術を少しだけ研究してるから、その話とか持ちかけたり色々試してるんだけどね……はは……会うとしたら、今回で3回目だから、最後になっちゃうかなぁ」

「……思ったより難航している様ですね。アルトさん」

ヴィレムは顎に手を当て、考え込むように返す。

「ど、どうしましょう……メルフィさんの脚の件もありますし……ボクを診療所に運んでくださった時、アルトさんも一緒だったことを先生は知っていますし……」

「これ以上、ことを荒立てないのが最善ですね。そして、フィリア様の医療費を準備する」

「あとそうです。先生から薬草の調達もお願いされたんでした」

 フィリアは思い出す。
 そして、ヴィレムも。

港町グランツの西海岸にある離島の話ですね。薬草の調達と、『不死身の石』の話をされていましたね」
「そういえば、僕達が戻る前に、港の方が賑わっていたんだよね。お宝探しだ!って町の人が張り切ってた」
「その話でしたら、明日トレジャーハントを開催するって、町の人が話しているのを聞きましたわ」

「それなら、それに参加するのはどうでしょう! 薬草も取りに行けますし、レイ先生が言っていた不死身になる石も見つかるかもしれません……!」

 フィリアはこれしかないと、立ち上がって拳を握り提案した。

「お宝が見つかるかは分からないけど……希望はありそうだね。孤島となると貴重な食べ物とか、素材がありそう。それを採取して売ればお金にはなるかもしれない。……かなり賭けになると思うけど……」

 そんななかヴィレムは黙ったままだった。
 何か考えているようだった。

「ヴィレム? どうかしました?」

 フィリアが問いかけると、ヴィレムは瞼を閉じ、肩の力を抜いた後に答えた。

「……そうですね。頼まれ事もありますし、不死身の石は手に入るかは賭けになりますが…… これ以上、彼女を刺激しないように、トレジャーハントに参加しましょう」

「そうとなったら下調べだね。僕は町の人に島のこと聞いてくるよ。ね、キナリ君」

「んえ〜? どこの“しば”をかりにいくんですかぁ?」

「……芝!? ……………あ、えっと、島の事かな。聞き間違えちゃったのかなぁ……はは……」

 アルトはすっかり話についていけず、聞き間違えすらしている、キナリを連れて外に出ていった。

「私は明日使う道具を見直してきます。旅支度があるので、あまり必要は無いと思いますが……サバイバル用の道具があった方が良いでしょうから」

「ボクも行きます。まだ、町を見ていないので、ヴィレムと一緒に」

 ヴィレムは頷く。

「時間はありませんが……一緒に、『夢蒼花〈むそうか〉』の事も聞いてまいりましょう」

 そうして1人取り残されるエレナ。
 直前にフィリアが『エレナも行きますか?』ときょとんとした顔で問いかけるが、

「あっ、わたくしはいいですわ。明日の為にお弁当を準備しておきますわ。いつもヴィレム様にご馳走になってますから」

「エレナは料理もできるんだね。すごいや」
「家事ができるご令嬢はそうそういないと思いますね」
「そんな、大したことありませんわ!」

 謙虚に振る舞うエレナだが、実際は満更でも無い。
 料理を作るのは一般的な女性くらいはできる。
 その理由もいつか出会う運命の人にふさわしい淑女になるためと、私欲に溢れているからこそ。
 今回は、サバイバルになるかもしれない事、一食でもちゃんとしたご飯が食べたいと思ったこともあったからだ。

「さあさあ! 行ってらっしゃいませ!」

 エレナは2人を見送って、
「お菓子も作ってしまいましょう! うふふ♡」

 と、大きな独り言を口走り、宿屋の厨房へと向かった。