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1章「精霊の森」

夢を見る。
『またいつか会えるならあなたとあの場所で会いたい』
『待っています』
『あの場所で。ずっと、信じています』

と誰かが涙を流しながら微笑む。
そして手を伸ばして、夢から醒める。

これは、僕が幼い頃からよく見る夢。


 西の国〈ノインシュテルン〉。その国は蒼き星〈アステラ〉の西の海に浮かぶ大陸。草花や豊かな水源など自然に恵まれ、その多くは緑に恵まれる美しき国だ。魔術に特化した国でもある。大昔、9つの宝玉〈フロスト〉の恩恵によって平和が約束された土地でもあるが、その世界は、何処か哀しく儚さをを感じさせる―

 昼下がり、木陰で休む2人組の少年達がいた。
1人は毛先に青みがかった白髪を持つ少年。手持ちのトランクバックを枕に、丸いシルエットをしたキャスケットを被って眠っている。
小柄で何処となく中性的な印象を放つ。長いまつ毛は彼の全体的に色白で小柄な体型からより一層繊細な印象を受ける。

 もう1人は明るめの茶髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ青年。眠る少年を見守りながら、紅茶を嗜む姿は良家の使用人のような高貴な印象を与える。

「……ん」
「目が覚めましたか? フィー、おはようございます」
「おはよう、ヴィレム。きれいだったなぁ…」
「またあの夢を見たのですか」
「うん。いつもと同じところで目が覚めた。ヴィレムにもみせたいな」
「蒼い花の海、宝石箱のように輝く湖、夜は星が綺麗な所でしたよね」
「あの人もすごく綺麗。一体何処なんだろう」
「私たちはその場所を探し求めて旅をしています。さぁ行きましょう、あと数時間で日が落ちます。今晩休む場所を探しましょう」
「そうだね」

 フィーと呼ばれた少年と、使用人のような雰囲気を持つ青年ヴィレムは再び歩き始めた。

 いつもの夢。それは白髪の少年フィーが幼い頃からよく見る夢の事だ。
辺り一面に咲き誇る蒼色の花畑。まるで空を映したような幻想的な雰囲気の場所で、奥には星空を鏡のように映す湖がある。その場所は天国のような、世界の果てがこんな場所であったならいい―― そう思えてしまうような美しい場所。
そんな幻想的な場所で決まって、彼自身に話しかけてくる不思議な声。白髪の女性が彼に向けて 『ずっと待っています。この場所で』 と話しかけてくるのである。

 フィーは幼い頃から見るその夢は、自分に対して何か問いかけているのではないか、実際にある場所なのではないか……そんな期待を秘めて、従者のヴィレムを連れて旅に出たのである。

 2人が歩いているこの場所は、新緑と野に咲く草花が美しい森『フォレルの森』。精霊が住まうと言われており、通称『精霊の森』とも呼ばれている。

「この森はとても綺麗だね。緑も空気も、差し込む陽も」
「この国が誇る緑ですね。 ……フィー止まって」

 ヴィレムは何か勘づくように、フィーと呼ばれる少年の足を止めさせる。どうやら後をつけられていたらしい。ヴィレムはもちろん、フィーも察していたようだ。

「……うん。いつから?」
「少し前ですかね、もしかしたらもっと手前かもしれませんが」
「5人?」
「惜しいですね、1人少ないです。フィーは私の後ろに」
「いいや、ボクも戦う」
「では司令塔をお願いします。奥で様子を見ているあの男です。貴方の魔術で狙えます」
「うん」

 どうやら戦い慣れた2人は、即座に敵の動きを予測し臨戦態勢へと移る。フィーは魔法銃『雪の精〈ヴァルスドゥネージュ〉』を、ヴィレムは小型のナイフ『トレートル』をいつでも繰り出せるよう身構える。
盗賊と思われる、いかつい男たちが前へと歩み寄る。スキンヘッドに、無駄にガン開きの目。絵に描いたような怪しい雰囲気があった。

「そこの兄ちゃんたちよ、悪いことは言わない。金目のものを……」
「まるで、決まりきったようなことを、おっしゃいますね〜」

 ヴィレムはまるで貼り付けたような、薄い笑みで言い返す。その後ろから身を潜ませるようにフィーは覗き込む。初っ端からつまらない突っ込みをされ、頭にきた盗賊の男はふつふつと頭に血が上る。

「話は最後まで聞けよォ!?」
「山に潜む怪しい男。金目の物を狙って襲う。お決まりのパターンじゃないですか。言わなくても分かりますよ」
「野郎…… 動くなよ、そこの坊主を仕留める準備は出来ている」
「そうですか」
「見えた、行くねヴィレム」

 ヴィレムの影で様子を伺っていた、フィーは何かを見切った様子だった。すると後方にいる盗賊の叫び声が響く。
「うわああ」
「なんだ? うわっ!!」

 フィーは射程の長い魔法銃で司令塔を、更にその場から見える他2人の盗賊を魔術を込めた銃で捕らえた。
盗賊の身体は氷漬けになっていた。

 動乱に応じ、軽やかな動きでヴィレムが盗賊を倒していく。 起き上がった1人の盗賊がヴィレムの背後から襲いかかる―

「Ⅰノ弾丸 - 風花〈エアストブレット〉」
彼が得意とする、魔法銃と氷雪系の魔術を組み合わせた魔術『7つの銃弾〈クリスタル・ブレット〉』。
魔法銃に氷魔法の弾丸に込め、遠距離攻撃を可能にした戦い方だ。7つの効果があり、数が大きくなるほど強力な魔術になる。「Ⅰノ弾丸 - 風花」は、部分的に氷漬けを可能とする魔術。発動が早く消費魔力が少ないため即座に撃ち込むことができる。

 フィーは再び襲いかかる男の足元に、銃口を向け男を止たのだった。

「お見事です」
「まだまだだよ。1人気がつけなかった」
「いいえ十分です」
「ボクはヴィレムの力を借りなくても、身を守れるくらいになりたいんだ。だから指南してね」
「そうですか、守られる位が丁度よろしいかと思いますよ。私の仕事も無くなりますから」
「はは」
「こんなに素敵な森でもやはり物騒ですね、移動しましょう」
 2人はあっさりと盗賊を懲らしめ、その場を去っていった。

 2人は森を進み続け夜を迎えた―

「水場は確保出来ましたね。とはいえ、野営はとても危険です気を怠らずに休んでください」
「うん。ヴィレム?」
「なんでしょう?」
「星が綺麗だね」
「そうですね、町あかりも無くより一層輝いて見えます」
「僕達はどこまでゆくのだろう、遠くに行っても同じように星は見えるかな」
「フィーは本当に好きですね、星が。…見える星は変わっても同じように輝いている。それに違いは無いですよ」
「うん。明日の僕が、明後日の…… 未来の自分が何をしているか…楽しみだなぁ」
「ふふ、私もです。どこまでもお供しますよ。貴方の歩みを見せてください」
「ありがとうヴィレム」

翌朝―

「……ふぁ」
「おはようございます、フィー」
「おはよう。流石ヴィレムだね、いつもボクより早く起きてる」
「ふふ、いつもの紅茶でよろしいでしょうか?」

 ヴィレムは紅茶を容れるのが得意だ。こうして毎朝、主に腕を振るうのである。
「ありがとう、お願い。今日もよく晴れてるね、顔洗ってくるよ」

 ヴィレムが紅茶を入れる前にフィーは顔を洗いに近くの湖へと向かった。

「とても綺麗な水…… ふふ」
水面に移る自分を見て笑う彼は、どこか幼い少女のような雰囲気を醸し出していた。

「戻ったよ、なにか手伝えることないかな」
「では、お野菜を洗っていただけませんか」
「うん」

 そうして朝食の準備が始まった。
今朝のメニューは、野菜のスープと道中でとらえた兎の肉、ブレッド、質素ではあるが、朝を彩るには丁度なメニューだ。
2人は、軽く朝食を済ませ身支度を始める。

「フィー。御髪は整えなくてもよろしいのですか? 帽子を被ったまま、お休みになってましたよね」

 フィーは気まずそうな顔で答えた。
「下ろしたら、まずいかなって…大丈夫かな?」
「大丈夫です。今のところ気配は感じません。もし人が来ても私がいますから。」
「そうだね、お願いします」

 帽子を外し、髪を解く。すると少し水色かかった、まるで銀の糸のような長髪が陽の光を浴びて輝く―

「フィリア様の髪は本当に綺麗ですね」

 フィーと呼ばれる少年は、帽子の中に見事な程に綺麗な白銀の髪を隠していた。そして、ヴィレムに『フィリア様』と呼ばれたのであった。
「様はいいよ、でもありがとう。お母様から受け継いだ自慢の髪です」
「ふふ、髪を下ろした時くらいは良いのではないでしょうか? ……と、出来ましたよ。括りましょうか?」
「お願いしてもいい?」
「もちろんです。出来ましたよ」
「ありがとう、ヴィレムは本当に器用で助かるよ。いつも一緒に居てくれてありがとう。」
「ふふふ、さぁ行きましょう。目的地は、花の街〈フルール〉です」
「はい」

 2人は身支度を終え、再び旅路に着く。

「今日はどんな出会いがあるかなぁ」
フィリアは楽しそうに手を広げながら歩き出した。主であるフィリアの姿を、後ろから穏やかな笑みでヴィレムは見守るのであった。