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1章「精霊の森」

謎の魔物、嗇薇淑女デモン・ローザを倒し休憩を終えたフィリア達一行は、目的地である花の街〈フルール〉まで半日くらいの地点まで進んでいた。そしてフルール到着前、最後の一晩。


 日が沈む前にフィリア達は、花の街〈フルール〉に繋がる川を目指して歩いていた。川に沿って歩いていると、見晴らしが良い川岸を見つけた。彼女たちはそこで一晩を明かすことにした。

「すごく開けていていい所だね。夜になったら星が見えそう!」
フィリアは、まもなく夕方を迎える白んだ空を見上げながら言った。その場所は奇跡的に、木が少なく空を見渡すにあたって障害物が少ない、星を見るにはとてもいい場所だった。

「フィーは星を見るのが好きですからね。今日は星を眺めながら寝れますよ」

「……ヴィレム」
フィリアは川の前でしゃがみながらヴィレムの名前を呼んだ。

「如何なさいました?」
「〜っ!やっぱり水浴びしてきていいかなっ……ここお水綺麗だし。……その昼間戦った時にいっぱい魔力使ったら汗もかいてて……」
「やっぱり気にしてましたか。そんな気はしてました」
「いいんじゃない? ルボワと2人で行ってきなよ。ヴィレム君もキナリ君も後で行ってくるといい。今日はみんな戦ったから、汗を流したいだろうし」

「そうですね…… まもなく日が落ちますので女性の2人は辺りが暗くなる前には戻ってきてください」
「ふたりが戻ってきたら、僕達もいこう」
「私は早朝にひとりで行くので、おふたりで行ってきてください。私は夕食の準備をしていますので。それに、女性2人きりで待たせてしまうのも少々心配ですので……」

「ヴィレムは少し過保護です……」
フィリアは口を尖らせながら答えた。

「貴方は過保護過ぎるくらいで丁度ですよ」
「う……」
どこか心当たりがあるような気がして小さな唸り声を上げたフィリア。

「さぁ、行ってきてください。時間がもったいないですよ」
「ありがとうヴィレム、行ってくるよ」



 そうしてフィリアとルボワは少し離れたところで、水浴びをした。流石に丸裸にはなれないので、今まで着ていた肌着のまま川の浅瀬で身体を水に浸す。

「フィリアって綺麗好き?」
ルボワは覗き込むように問いかける。

「うーん、かもしれないなぁ。旅に出る前は毎日お風呂入れてたし…… ルボワは普段どうしてるの?」
「わたしは精霊だからお腹すいたり汗かいたりそう言うのは無いんだ。でも気分でやってたりする!」

 そう言うとルボワは、身体を水面に浮かせて空を眺めはじめた。
「ここ、流れが緩やかだから流されないで浮くよ」
「わぁ、ほんとだ。気持ちいい……」

「わたし、こうやって星を眺めたり、考え事するの好きなんだ。だから精霊には必要ない事かもしれないけどやるの。マッシュ達は水が苦手だから1人なんだけどね」
「力が抜けていいね。今日は疲れたから水浴びしてるうちは何も考えずこうしていてもいいかも……」
「でしょ? 時には普段必要なくても、やってみた方がいいことってあると思うんだ」

 ルボワはフィリアの方を見て微笑んだ。日が傾いていることで、少しだけルボワに影が見えた。フィリアはそんな気がした。
身体が冷え切る前に2人は、川から上がり、綺麗な肌着に着替えて、3人の元へと戻って行った。



「ただいま。手伝い変わります」
「お帰りなさいませ。アルトさんとキナリ様が火を起こしてくださいましたよ。身体が冷えたでしょう。手伝いは、身体を温めるのと一緒に髪も少し乾かしてからで大丈夫ですよ」

 西の国の現在の季節は、春の終わり。日中は程よく暖かく、夜との寒暖差を感じる時期だった。新緑が生い茂る季節とも言えよう。

「ヴィレムはお母さんみたいだね」
ルボワは直球に思ったことを口にした。

「おか……」
「確かに……そうかもしれません」
フィリアは顎に手を当てて深く納得した様子だ。ひたすら頷いている。実際彼女はヴィレムを何処ぞのお母さんと錯覚したことがある。本人には内緒だが。

「えっ…… あの、フィリア様?」
流石にヴィレムも慌てている。まさかとは思ったが、想像以上にフィリアが真剣な顔をしている。

「だって、2人ともずっと一緒でしょ。ヴィレムがフィリアの面倒見てるみたいだし、料理もできるし、身の回りの事も完璧! フィリアの事大切にしてるし!」
「そうだったのですね…… ボクが、ヴィレムと一緒にいると安心するの……ヴィレムがお母さんみたいだからだったんだ……」
「ええ…… 納得しないでください……」

 ヴィレムはフィリアが冗談だと捉えると思っていた。それが予想とは違って、妙に納得しているようで、少々あっけらかんとしている。

「はは、ヴィレム君。僕達も水浴びしてくるよ」
アルトは片手を上げて合図して、キナリと共に水浴びに行った。

「ヴィレム、今日の晩御飯は何?」
「今晩は、パンケーキと、先程アルトさんが捕まえてくださったワイルドボアのお肉、ワイルドボアで出汁を取ったスープ、サラダです。」
「パンケーキ!? 夜なのにパンケーキ食べていいの?」

 フィリアはとても嬉しそうだった。旅に出る前は、そもそもパンケーキはおやつであって、夜には食べられなかった。また、糖分が多いものは、そもそも夕方以降は禁止されていたのだ。

「食材の関係です。それに最後の夜でしょう、晩餐にはぴったりかと思いまして。昼間は戦いましたし、沢山栄養を取っても良いかと」
「わぁっ! 嬉しい……! 髪乾かしてお手伝いするね!」

 フィリアは甘いものが好きだった。それだけでご機嫌なようで、鼻歌を歌いながら髪を乾かし始めた。ルボワもご機嫌なフィリアの様子を見て、気が付けば曇った表情は何処かへ消えていた。

 ヴィレムはとても器用で、料理もかなり手際がいいため、手伝うこともそれ程無い。フィリアはルボワと共に、食卓の順を始めることにした。

 フィリアは携帯魔法で縮小して持っているカバンを取り出す。水色のトランクバッグ。旅に出る前に選別として自分の母親から貰ったものだ。
ヴィレムは器用ではあるが、魔法においては攻撃特化型で、魔力の維持はあまり得意では無い。携帯魔法は魔力の維持が鍵となるため、 従者としてフィリアの傍にいるヴィレムは、直ぐに主を守れるように携帯魔法は制限しているのである。その為、一部の道具はフィリアに預けている。

 フィリア自身は、魔術が得意な方であり、特殊な体質から一般的な人間よりも魔力の量と、濃度が高い。また、魔力の性質が自信を守る防御特化の性質を併せ持つ特別なもので、氷魔法に氷結させるものや身を守るものが多いのは、その性質故らしい。制御や維持する力もそれが所以だ。

 フィリアはカバンから、お皿や頻布などの道具を取り出す。ルボワは興味津々でフィリアの鞄を覗き込むが、フィリアは恥ずかしかったらしく直ぐに片付けてしまった。
ルボワと共に準備をしているうちに、アルトとキナリが戻ってくる。
その頃にはヴィレムが全ての料理の準備を終え、盛り付けたら完成の状態になっていた。



 晩御飯ではあるが、まるで夜のピクニックのようなメニュー。フィリアは嬉しさとは裏腹に、やはり夜なのにパンケーキを食べていいのか……そんな気持ちを胸に秘め、そわそわしていた。フィリアは背徳すら知らない、とても生真面目な少女なのだ。

ヴィレムはフィリアの肩を叩き『今日はトクベツです』とウィンクして答えた。するとフィリアは目を輝かせ、『さあ食べましょう!』と一行に声をかけた。

 厚さ2cmを越えるヴィレム特製パンケーキ。とてもふわふわで口に入れた瞬間溶けるようなやわらかさ。
それを知っているフィリアはもちろん、アルトとルボワもとても幸せそうに頬張っている。ルボワのおすそ分けで貰った酸塊のジャムや花の蜜をかけた、充分に贅沢で背徳のパンケーキは、皆と食べることでより一層美味しく幸せに感じた。

 そんな中、キナリはやはり目立っており、大口を開けてヴィレムのパンケーキを一口で笑顔で平らげていた。
いつもなら引き気味なリアクションを送りがちだが、この夜は違ってみんなで笑い合った。食後にはルボワの好物であるカモミールのハーブティーを飲みながら、語り合う。
楽しさのあまり疲れを忘れ、フィリアとルボワは仲良く寝落ちしていた。

「おや、おふたりは寝落ちしてしまったのですね。星を見ようと意気込んでいたのに」
「昼間は疲れただろうし……楽しそうだったよ2人とも。幸せな夢でも見てるんじゃないかな。片付けは僕が手伝うよ」
「ありがとうございます」
「ぼくも''てつだい''ます〜」

 珍しくキナリも起きている。と言うよりも、体力が有り余っているのだろう。男子3人で手分けして食器を片付け、その後寝袋を並べ就寝した。



 深夜、月が若干傾いた頃。
ルボワは目を覚ました。元にいた場所と異なる場所に寝かされていた。誰かが自分を運んでくれたのだろう。隣にはフィリアが気持ちよさそうに眠っていた。再び眠ろうとするが、なかなか寝付けず、少し離れたところにある花畑へと歩いて行った。

 しばらくするとフィリアも目を覚まし、隣に誰もいない寝袋がある事に気がつく。ルボワが居ないことに気がついた。

 周りを見渡すと、洗われた食器や鍋がある。自分が寝落ちした後ヴィレム達が片付けてくれたのだろう。フィリアはヴィレムを起こそうとしたが、申し訳なくなってそのまま駆け出した。

 少し離れたところで、フィリアは精神を集中させた。魔力を感じ取る力が優れているフィリアだからこそ出来る芸当だ。

「! 見つけた!」

 翡翠色の大地と調和するような自然に馴染みのある大きな魔力。

「ルボワ!」
「フィリア?」

 ルボワがいたのは白い花とブルーベルが咲き誇る花畑。周りに木々がない為、月明かりが花畑とルボワを照らしいてる。
月明かりに照らされたルボワはどこか異質で……まるで、ルボワが神聖な何かなのではないかと思ってしまう不思議な感覚がした。

 実際ルボワは精霊の森を司る精霊。人では無い。それを感覚的に目の当たりにした……そんな気がしたのだ。

 どうやらマッシュ族と遊んでいたようだ。白い花とブルーベルの花で花冠を作っている。そんなルボワをマッシュ族は心配そうに覗き込む様子も伺えた。

「ルボワ……! 探したんだよ。急に居なくなってびっくりしちゃった」
「へへ、ごめんね。眠れなくなってお散歩してたの。すっごく月が綺麗だから……たまたま来てくれたこの子と遊んでたの」

 フィリアはルボワの元へと向かう。すると、ルボワの隣にいたマッシュ族が1人フィリアの元へ駆けてきて、小さな体でフィリアの脚へとしがみついた。数日前にフィリアに懐いた個体のマッシュ族だ。

「きゅ〜~~~!!」
「ふぇ!?」
そのマッシュ族は、どこか必死そうに足止めをしているように見えた。小さな体で焦るように飛び跳ねている。

「えっ……どうしたの?」
「きゅっ~!!」

 フィリアは屈んでマッシュ族と目を合わせる。つぶらな瞳はなにか焦りを感じているような雰囲気があった。マッシュ族はとても身体が軽い。その気があれば蹴り飛ばすことだってできる、そんな小さな身体でフィリアの脚にしがみついていた。

「……」

 フィリアにはマッシュが何を言っているのか分からない。でも何となく、ルボワの方に行かせたくないような……そんな気がした。

「……マッシュさんごめんなさい。ボク、ルボワとお話したいんだ」
「きゅ……」

 フィリアはマッシュ族を抱えて『ルボワ!そっち行ってもいいかな?』と声をかけた。
ルボワは目元を擦ったあとに『うん』と返事をした。気のせいか少しだけ鼻声に聞こえた。
フィリアは彼女の隣に座る。覗き込むと彼女の顔を見ると少しだけ目元が腫れていた。

「ルボワ、大丈夫……?」
「え!? うん大丈夫だよ!」
「……ボク、もっとルボワと話したくて」
「嬉しいな。でも日が登って、街道まで歩いたらみんなとお別れ」
「うん、さみしいなぁ……」
「……」
「ルボワ?」
「うん…さみしい。……さみしいよぉ……」

 ルボワの声は、いつもより小さく掠れていた。2回目の『さみしい』を言う頃には大粒の涙を流し泣いていた。

「ねぇフィリア、わたし皆と冒険できてすごく楽しかったんだ。こんな気持ち久々だよ。わたしが生きてきた中でもわずかな時間なのに……だから、フィリアと別れるのが悲しくて寂しくて……」
「ルボワ……ボクも……私も貴方と出会えて、友達になって短い間だけど、とても楽しかった。大丈夫だよ、フルールでの用が済んだら、またここに戻ってくるから。明日が最後じゃないよ」
2人はやっと本音で語り合えている、そんな気がしていた。夜は更け辺りは静か。夜の静けさは、寂しい事も悲しい事も……不安な事も、正直に話してしまう。そんな気持ちにさせられる。

「……わたしね。さみしい気持ちもあるけど、少し怖いの……」
「皆と別れることが……?」
「ううん。……昼間戦ったあの魔物。わたし、あんなの知らない……」
ルボワは自身の腕を抱えて暗い表情をして語った。

「わたし、ずっとこの森を見てきたから…… あんなの初めて見て…… この森になにか起こっている気がするの… 」

 精霊の森の守護精霊であるルボワは、何百年も森を管理してきた。
そして今、何か森で異変が起きている、不吉な事が起こりそうな予感がする…… そんな気持ちと久々に巡り会った友人との別れ。
精霊としての孤独と寂しさ、不安で彼女の胸はいっぱいだった。

「ルボワは不安なんだね。だから魔物と戦っている時も、その後も元気がなかったんだ」
「気がついてた……?」
「うん。ルボワはいつも元気に笑顔を振りまいてくれるから。私、ルボワが笑っているところすごく好き。見ていると私も思わず元気になれる。だから、すぐに気がついたよ」

「それにね、キナリの小屋で一緒に寝た時に見た夢が、ルボワの夢だったんだ。ずっとひとりで、長い時を過ごしてきた貴方の夢。夢ではあるけど、私はルボワの気持ちに少しだけ触れた気がしたんだ」

「そっかぁ〜」
ルボワは夜空に輝く月を眺めながら言った。

「フィリアで良かったなぁ」
「?」
「わたし、みんなと別れるのが寂しくて、ひとりが怖くて……そんな気持ちは魔物と出会う前からあった。でもね、フィリアと話していたら、わたしの事心配してくれて……そう思っていたら、また会えるかもしれないって思える。会えなくても会いたいって……」

 フィリアはルボワの手を包み込むように取った。
「会えるよ。ううん、会いに来る。またみんなで。私、もっとルボワとお話したいから」

「う〜〜」

 ルボワは話しているうちに落ち着きつつあったが、また涙が込み上げてきた。

「この森で起きてることも見過ごせないもんね。もし貴方に何かあったら駆けつけるからね」
「ありがとう、フィリア……!」

ルボワは沢山泣いた。その後2人は花畑に寝転がり空を見ながら語り合い、再び眠りについた。



 明け方頃、ヴィレムが目を覚ました。
彼は朝食当番をになっている為、いつも朝が早かった。辺りを見渡すとフィリアとルボワの姿がなかった。
ヴィレムは水浴びする前に2人を探しに出る。

 少し離れた花畑で2人は気持ちよさそうに眠っていた。
「おやおや、とても幸せそうに眠っておられますね」
ヴィレムは穏やかな笑みを向けて、彼が着ている上着を2人にかけて水浴びに向かった。

 春の終わりとはいえ朝は冷え込む。ヴィレムは簡単に水浴びを済ませ、岸に上がろうと振り向きかけた時、後ろから声がかかる。

「あっ、ヴィレム君おはよう」

 ヴィレムは即座に距離を取った。水浴びをしていた為か少しだけ気を抜いていた。……が、声の主はアルトだった。寝起きだろうか、少しだけのほほんと柔らかな表情をしていた。

「あぁ、アルトさんでしたか。おはようございます」
「おはよう、どうしたの? 少し動揺していた気がするけど…」
「いえ何でもありませんよ」
「そっかぁ、にしてもヴィレム君良い身体してるね。 僕が戦ったら余裕で負けちゃいそう」

 ヴィレムは使用人として普段は、 正装をしている。その為分かりにくいが、ほどよく筋肉のある均整のとれた体をしている。薄らと身体には切り傷の痕も見受けられる。

「…………やだなぁ。恥ずかしいですよ〜」

 ヴィレムは左手で首筋辺りを押え、僅かな間の後に何か含んだような笑みを浮かべながら答えた。

「ヴィレム君はすごく器用だし、モテそうだね」
「ふふ、ありがとうございます」
「そう言えば、フィリアさんとルボワがいないんだ。見なかったかい?」
「おふたりでしたら、向こうの花畑で幸せそうなお顔で眠っていましたよ。食事の準備が済んだら声をかけようかと思います」
「そうかい?それなら大丈夫そうだね」
「私も、もう少ししたら上がりますので、先に戻っていてください」

 ヴィレムは妙に1人になりたい様子だったが、束の間もなく着替えて食事の準備を始めた。



 ヴィレムが朝食を準備していると、フィリアとルボワが起きてきた。戻ってくる際に顔も洗ってきたようだ。

 朝食はホットサンド。最後のパンをアルトに起こしてもらった火で焼き上げた。
ルボワは昨晩の出来事があってか、先日までの悲しそうな表情は晴れて、とても美味しそうにホットサンドにかぶりついていた。相変わらずキナリは、一番最初に食べ終わり運動をはじめていた。
朝食の片付けを終えると、一行はすぐに出発した。

 途中は何事もなく順調に進むことが出来た。
そして、ついに生い茂る木々が途切れる場所に辿り着いた。
……精霊の森の出口だ。そして、ルボワは立ち止まった。

「みんな、わたしはここまでみたい!」

 ルボワは寂しい気持ちをぐっと堪えて、自分がこれ以上共に行けないことを伝えた。

「ここから出たら、わたしがどうなるか……分からない。でもわたしはこの森を守る役目があるから。……みんなと一緒に旅ができてとても楽しかったよ。ありがとう!」

 昨晩は寂しさと悲しさ、不安の入り交じった感情を胸に秘めていたルボワは、フィリアと話したことによって、いつも通りの花が咲いたような満開の笑顔で一行に感謝の気持ちを伝えた。

「えっとぉ〜 なにかあったら、この''おの''を''ふりに''きます〜」
「キナリ、切っちゃダメな木は本当に切っちゃダメだからね。あと、その辺に植わってる木もダメ。街に植わってる木は絶対ダメ!」
「え〜? ぼくは''きをきる''のが''しごと''なんですが〜 ……んぁ〜? でも''やくそく''だから''がまんですねぇ〜」
「そうだよ。貴方のことも分かるといいね、みんなのこと守ってあげてね」

 まるで母と子、姉と弟のような構図。元は森に潜む謎の木こりとして、木々を切り倒し森を荒らしていたキナリであるが、この数日間で事態は収集した。この出会いがなければ彼はずっと森を荒していただろう。ルボワも手を焼き続けていただろう。

「ルボワ、今度戻ってくる時は君に妹を紹介したいな。これからは君の姿が見えるだろうし、僕はこの森に住んでるから、また会おうね」
「私からも、お礼を伝えさせてください。ルボワ様。フィーと仲睦まじくなって下さったこと、従者として感謝しております。あと、カモミールの花と酸塊、他にも薬草をいっぱい恵んでくださって大変助かります」
「うん!」

「ルボワ……! 昨日のこと……」
フィリアは昨晩の事を忘れまいと、ルボワの名前を呼んだ。
「うん、忘れないよ。また会えるって信じてるよ! だから元気に戻ってきてね! また、わたしの事呼んでね!」
「あと……考えたんだけどね」

フィリアは少しもじもじとしながらも、思い切ったような表情でルボワを見つめて答えた。

「出来るか分からないけれど…… いつか貴方に外の世界を見せてあげたい! だから、ボクの事……わたしの事、忘れないでね。また会いに来るよ」

「外……? 本当に……?」
「うん。方法も分からないけど、旅をしてその方法を見つけて…… 分からない事だらけだけど、そうしたい!って思ったんだ」
「嬉しい……そんなこと言われたことないよ。やっぱり貴方と出会えて良かった!」

 するとルボワは愛用の杖『コロール・フォイユ』を呼び出すと、その場で円を描くように一回転し魔法陣を展開した。

「これはわたしからの餞別……! 旅人のみんなに祝福を!『夢想の花々〈フルール オン レーヴ〉』!!」

魔法陣から翡翠色の光があらわになる。そして優しい風と共に花の芳香が漂う。気がつけば色鮮やかな花々の花びらが舞っていた。

「綺麗でしょ。わたしのお気に入りなんだ!……フィリア!いつか……わたしに外の世界を見せてね! 行ってらっしゃい!」

「……! はい! 約束です!」

 ルボワは花弁を散らせる魔法を使ったあとに、大きく手を振る。その後、ルボワの魔法に釣られてわらわらとマッシュ族が現れた。そして、共に手を振り見送ったのである。

 フィリア達一行もルボワ達に手を振り別れを告げたのであった。

「きゅ……」
「大丈夫。もう寂しくないよ。だってまた来てくれるから」

 マッシュ族はルボワに対して、心配そうにしていたが、ルボワはとても晴れ晴れとした表情で、フィリアたちの背中を見送ったのだった。

「待ってるね、フィリア!」


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