STORY
CHARACTERS
NOVEL
GALLERY
ABOUT開く
BLOG

Kleinodz-LINK

2章「花の街」

フィリア達は、花の街〈フルール〉に向かうため、『精霊の森〈フォレルの森〉』で出会った精霊の少女・ルボワと別れた。目指している花の街まであともう少しだ。


 精霊の森フォレルの森を抜けると、フィリアの視界は一気に開けた。これまで樹木に囲まれた森の中を歩いていた為、この様に開けた場所はいつぶりだろうか。フィリアは楽しそうに手を広げて歩いている。

 昼前、フィリア達は、あと数時間歩けば『花の街〈フルール〉』にたどり着くところまでやってきた。

「やっと道が見えた! ここからがビレア街道だよ」
アルトが指さした方向には、舗装され道端には杭が打たれた道が見えた。

 ビレア街道は、精霊の森フォレルの森花の街フルールを繋ぐ道。西の国〈ノインシュテルン〉の南門から延びている街道だ。商人や国の役人などが使う舗装された道だ。
フィリアとヴィレムは、フィリアの夢の中に出てくるという『蒼色の花畑』を探すためにあえて精霊の森フォレルの森の森を抜けてきた訳だが、本来の花の街フルールへの正規ルートはビレア街道を進む方が正しい。

「この街道を進めば、あと数時間で花の街フルールにたどり着けるよ。お昼頃には着けるかな」
 アルトは腰に下げている懐中時計を開いて時刻を確認した。その中に、写真が入っているのが見えた。

「写真……? 妹さんでしょうか?」
 フィリアはたまたま見えてしまった写真について問いかける。

「え? ああ、そうだよ。この間、話した妹のメルフィ。見るかい?」
 アルトはそう言うと、懐中時計の中に入っている写真を見せてくれた。
灰がかった赤色、梅鼠色のふわふわとしたくせ毛の少女。アルトと同じ紅玉色ルビーの瞳が特徴的な可愛らしい少女が写った写真だ。隣にはアルトが写っている。

「綺麗な髪色ですね。お顔もアルトさんにそっくりです……! とても可愛い…… お人形さんみたいな可憐な方ですね」
「ありがとう。メルは僕ほど髪が赤色じゃないけど、よく顔はそっくりって言われてた。歳は13歳だよ。前も言ったけど、フィリアさんに近いんじゃないかな?」
「わぁ、ボクは15歳です。いつかお話してみたいなぁ。花の街フルールでの用件が済んで、メルさんのところに戻る時は、ボクも挨拶したいです……! あっあと、ルボワも一緒に」

 フィリアは自身の手を握りしめ、訴えかけるようにアルトに話した。

「はは、フィリアさんは優しいね。僕もそうして欲しい。きっと貴方やルボワさんと知り合えたら、メルも喜ぶよ。……僕も早く病気の手がかりを探さないとな」
「はい。……では花の街フルールに着いて落ち着いたら、調査がメインになりそうですね。ボク達も植物研究所に用があるので……!」

 フィリアとアルトが話していると、後ろから荷馬車がやってきた。通行の邪魔になるとフィリア達は道の端へと身を引くと、荷馬車の手綱を引いている男性は、帽子を外して軽く会釈をし、通り過ぎた。

「商人でしょうか。街が近い為、すれ違う人も増えてきましたね。先を急ぎましょう、皆様」
ヴィレムがそう言うと、一行は再び歩き始めた。

 しばらくすると、1人の男性が荷馬車を止めて立ち往生していた。先程通り過ぎた商人らしき男性だ。なにか悩むように、眉間に皺を寄せている。

「あの、どうかしましたか?」

 フィリアは男性に声をかけた。

「あぁ、君達はさっきの旅人さんだね。実はこの先の道に魔物がいて、しかも群れなんだ。見た感じはマンドラゴラなんだけど、なんだかとても気が立っている様で」
「……? おかしいな、街道付近には魔物が出没しないように結界が張られているハズなのに」

 アルトも眉をひそめて考え込む。遠くにはマンドラゴラの大群が見えた。
西の国ノインシュテルンは魔術に特化した国でもある。その為、街や街道には人々を守るための魔物避けの結界を張っている。男性が言ったようなマンドラゴラなどの下級の魔物は近寄れないはずだった。

「ちょっと待ってね、多分付近に術式を組み込んだ魔法石があると思うんだけど……」

 アルトは近くにある街灯を調べ始めた。その街灯は少しだけ焦げたような跡があった。手を触れ調べていると、 青色の魔法陣が浮かび上がる。

「あっ、魔物避けの魔法陣ですね? でもなんだか弱っているような……」
「フィリアさんは、魔力を感じる力が優れているんだね。……この魔法陣、不安定になってるよ。誰かによって壊されたような、いじられたような感じになってる」

 アルトは錬金術に特化した化学者でもあるが、それ以前にとても優秀な魔術師でもある。そのため、術式の欠陥をすぐさまに見抜いて見せた。

「応急処置はするけど、近くの教会に連絡した方が良いかもね。この辺りだと花の街フルールの管轄かな」
「流石、アルトさんですね。花の街フルールに着きましたら、念の為に教会にも行ってみましょう」
ヴィレムは教会に行くように話していると、男性の叫び声が聞こえた。

「うわぁっ!」

 離れた所から男性の叫び声聞こえた。マンドラゴラが攻撃する際に噴射する、粉を浴びてしまったようだ。ヴィレムは声を聞き付け、男性の口と鼻を塞いで、距離をとるように後ろに下がった。

「くそっ! いてて…… 茶髪のお兄ちゃん、ありがとう。さっきまで群れていた魔物の様子がおかしい。襲いかかってきやがった!」
「どうやら、ここで対処した方が良さそうですね。フィーはそちらの男性をお願いします」

 ヴィレムの判断は早かった。フィリアに襲われた商人の男性を任せて、荒れ狂うマンドラゴラと交戦する。

「植物族なら僕の出番だね。キナリ君、少しだけヴィレム君と一緒に時間を稼いで、その間に敵を1箇所にお願い」

 アルトは炎魔術で敵を一掃するつもりだ。その間、キナリに敵の注意を引くように頼んだのだ。

「りょ〜かいです。いってきまぁす〜」

 キナリはいつもの調子で特攻した。アルトの指示通りに、マンドラゴラを1箇所に誘導する。彼の手に馴染んだ、いつも斧を振り回す。

「あなたはこっちです〜 そ〜い!」
まるで、だるま落としのように軽い調子で斧を振り回し、マンドラゴラを1箇所に集める。

 その間、フィリアは男性に治癒魔術をかけていた。水の治癒魔術『ピュアドロップ』だ。痺れなどの状態異常を回復させることが出来る、治癒魔術の一種でもある。

「もう大丈夫ですよ。応急処置で治癒魔術をかけましたが……他に痛む所はありますか?」
「坊ちゃんは魔術師だったんだな。ありがとう。お陰で楽になったよ。それにしても驚いたよ。兄ちゃん達、あんなに身軽にマンドラゴラの大群と戦うとは」

 男性はフィリアに礼を伝えた。そして、目の前で戦うヴィレム達を賞賛した。

「坊ちゃん達は只者ではなさそうだな」

 男性がそう言うと、フィリアは微笑んで答えた。

「ふふ、通りすがりの旅人……です」

 一方、男子3人はマンドラゴラと交戦している。ヴィレムとキナリは敵の大群を1箇所に集め、アルトは炎魔術の詠唱を終えた所で、術を発動した。

「くらえ! イグナイテッド!」

 マンドラゴラの足元にから紅い色の炎が燃え盛る。炎の中級魔術『イグナイテッド』が発動した。中級魔術ながらも、普段見るイグナイテッドよりは火力が高い。これも、優秀な魔術師であるアルトだからこその所業だろう。そして彼の炎は紅い色をしている。

「わっ〜! 1ぴきにげました〜!」
群れの中の1匹が逃げ出したようだ。キナリは空かさず斧を振りかざし、炎の中へと叩きつけた。

 イグナイテッドの炎が消滅する頃は、マンドラゴラは消滅していた。

「おふたりともお疲れ様です。これで一安心ですね」

 3人が話していると、男性はこちらにやってきた。
「兄ちゃん達、すごいんだな! ありがとう。これで先に進めるよ。そう言えば君達は何処へ向かっているんだ? この先の花の街フルールかい?」
「はい。このビレア街道から花の街フルールを目指しております」
「それなら丁度いい! 助けてくれたお礼に、花の街フルールまで乗せてやる。さあ乗った乗った!」

 男性もどうやら花の街フルールを目指しているようだ。お礼に荷台に乗せてくれるとの事だ。

「わぁ、いいのですか?」
「もちろん。坊ちゃんもさっき、俺の事助けてくれたもんな。それに教会にもさっきの事を伝えた方が良さそうだもんな! そうだ、名乗っていなかったな。俺はホフマン。商人だよ」
「ボクはフィーです。ホフマンさんよろしくお願い致します」
「私はヴィレムです。フィーの従者をしています」
「僕はアルト、こちらの少年はキナリ君です」
「よろしくです〜」

「おう! 花の街フルールまでよろしく頼むぜ!」

 そうして、フィリア達はホフマンの荷馬車に乗せてもらうことになった。花の街フルールまで余裕を持って辿り着けそうだ。