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2章「花の街」

フィリア達は花の街〈フルール〉に繋がるビレア街道で、商人の男性を助けた。お礼として街まで乗せてもらえることになり、無事に花の街フルールに辿り着いた。一方、見知らぬ少女がフィリア達を覗き見ているのだが……


「はぁ、何か素敵な出会いはありませんこと……?」

 ため息を着くように出会いを求める声。花の街〈フルール〉の名所『大樹の時計台』に設置されている展望台から街を見渡す少女が1人いた。

 珍しい桃色の髪。お団子状にまとめられた2つの髪束は耳の近くにまとめられ、アザレアのような濃い桃色のリボンで飾られている。大きな金色の瞳は上向きのまつ毛で飾られており、程々に整った容姿をしている。

「またさぼって。 ……少しは待つことを覚えタラ?」

 桃髪の少女の後ろから声がかかる。少し落ち着いた、癖のある喋り方だった。

「だって〜! わたくし、もう16歳ですわよ⁉︎⁉︎ そろそろ素敵な殿方との出会いを期待してもいい歳頃だと思うの。2年後には成人ですわよ」

 話し相手の少女は『はぁ』と溜息をつき、桃色の髪の少女の肩を掴む。

「そろそろ行クヨ。宿のお手伝いと、町長サンのお使い頼まれてるでショ?」
まるで桃髪の少女の引率の先生のような少女。黒髪を頭のてっぺんでお団子でまとめたヘアスタイル。揃えて切った前髪にキリッとした碧眼の瞳。髪や瞳の色素が濃いため、この街の出身ではないだろう。喋り方も少しだけ語尾が不自然だった。

「……やだ」

 桃髪の少女はこの期に及んで、お使いを拒否する気だろうか。展望台の手すりを握りしめ肩を竦めていた。

「え?」

 黒髪の少女は思わず驚きを口に出してしまった。すると少女は……

「きゃあああああ〜!!大変ですわぁああ!! 素敵な殿方を『見・つ・け』ましたわぅぁっつつ!!♡」

 と、大きな声で騒ぎ出した。展望台に響く黄色い声。観光客の視線は一気に少女に集中するが、声が聞こえなくなる頃には、姿が見えなくなっていた。

「!?!? えぇええ!?!? エレナ〜〜!! 待っテ!!」

 黒髪の少女は『エレナ』と言うの少女の名を呼び、彼女を追いかけた。

 一方エレナは運命の出会いを喜ぶ奇声を発したまま、その場から立ち去った。居ても立っても居られなかった。そう、エレナは止まらなかった―

 一方、フィリア達は、商人の男性・ホフマンの馬車に乗せてもらい、無事、花の街フルールに辿り着いた。煉瓦造りの門を潜り抜けると、そこには色とりどりで数え切れない種類の花々が咲き誇る美しい風景が待っていた。

「わぁ〜!」

 フィリアは思わず感嘆の声を出していた。彼女は初めて見る光景に目を輝かせ、胸の前で拳を握ってキョロキョロと辺りを見渡している。その姿はまるで、遠足に来た子供のようだった。

 花の街フルールは、西の国〈ノインシュテルン〉一の花の名産地。世界各国の植物を集めた植物園がある街だ。街の街路以外には基本に花や木々が植わっている。また、木造の高床式の住居が特徴的な街であり、住居を直接地面に建てないことにより、緑を保護する伝統がある。草花や植物を育てるために、街の至る所に水路が張り巡らされており、場所によっては小舟が移動手段のようだ。見渡せば、隙間なく草木が植わっており、更には住居の床下までにも緑が生い茂るその街は、まるで花の海とも言えるような、緑豊かで華やかな街だった。

 フィリアは辺りをキョロキョロと見渡していると、離れたところに大きな木がある事に気が付く。その大樹には、離れた所からも見える大きな時計が設置されていた。

「あれは、フルールの名所の『大樹の時計塔』ですね。フィーも気になりますか?」

 初めて見るものに心を踊らせ、珍しく落ち着きがないフィリア。彼女は想像以上の箱入り娘。その為、初めて見るものには素直に興味を示す。育ちが良いため時々世間からズレたこともする。そんな姿を見守るのがヴィレムの役目だ。

「本で読んだ時計台ですよね。本当に大きい……見に行きたいなぁ! 周りには花畑があるんですよね⁉︎⁉︎」
「そうですね、後ほど観光に参りましょう。……と、もうお昼の時間なのですね」

 ヴィレムがそう言うと、時計の針が2針揃う時間、正午を迎える鐘が鳴った。フィリアは鐘が鳴ると我に返った。

「わっ、つい……気分が高揚して……」

「フィリアさんは、気になることや興味があることになると、とても楽しそうだよね」
アルトはフィリアにそう答えた。フィリアは我に返り少し恥ずかしそうだった。

「ふふっ、お昼にしましょうか。食材がありませんので、今日はお店に入りましょう……おや?」
ヴィレムがそう返すと、遠くから何やら足音と猛烈な視線を感じたのだった。

 『『見つけましたわぁああああ!!!!』』

 向こう側から桃色の髪の少女がものすごい勢いで駆け寄ってきた。

「!?!?」

 一行は何が何だか分からなかった。全力疾走してきた少女は、膝に手をついて息を荒げていたが、一行を見つめる瞳は輝いていた。

「はぁはぁ、貴方達っ! 何処から来ましたの? あっ、いけませんわ、わたくしはエレナ。『エレナ=ウェルトン』と申しますの」

 エレナと名乗る少女は呼吸を整え、右手を胸に当てて名乗り上げた。桃色の髪にフリルが沢山着いたオフショルダーのブラウスに、短めのジャンパースカートを着ている。服には沢山のフリルやリボンがあしらわれている。見た目は10代半ばだろうか。痩せ型のフィリアと比べて、標準的な体型をしている。

「えっと、僕はアルト。精霊の森〈フォレルの森〉から来たんだ」

 アルトは少々焦り気味に答えた。するとエレナは目を輝かせて答えた。
「アルト様……! お会い出来て光栄ですわぁっ!」

 正直アルトは引いている…… 育ちがいいフィリアは、礼儀正しさ故か、律儀にエレナに自己紹介した。

「エレナさん、はじめまして。ボクはフィーです。こちらのヴィレムとは王都〈リヴェリウム〉から精霊の森フォレルの森を抜けてこの街に来ました。えっと、ボク達に何かご要件が……?」
フィリアはきょとんとした顔で、エレナに問いかける。

「貴方…… よく見たら、とても可愛らしい少年ですわね。撫でたくなっちゃう……」
エレナは本音を漏らしていた。フィリアは思わず『へ?』と困惑していた。ヴィレムは、彼女を危険と認識したのかフィリアの腕を引いた。その顔にいつものような穏やかな笑みはなかった。……エレナは不審者になってしまったようだ。

 すると後ろから大きな声が聞こえた。

『エレナ!!』

 黒髪の少女が駆けてくるや否や、エレナのジャンパースカートに着いている肩ベルトを掴んで後ろに引き摺られた。

「ひゃあ! 何するんですの!? リィ!! 折角、素敵な殿方達を見つけましたのに……!」

 リィと呼ばれた少女は、エレナの耳元で囁いた。

「エレナ……今の貴方の状況分かル? 不審者になりたくないなら、早く謝りなさイ」
「うっ……」
エレナはどう見ても悪目立ちしていた。そして気まづくなった。

「すみませんですわ、急に押しかけてしまって…… この街は商人が多く、若い方はあまり滞在しませんのでつい…… 貴方方は、旅のお方ですわよね? 良ければ、うちの宿をお貸しいたしますわ」

「……」

 一行は沈黙した。エレナは完全に信用を失っているようだ。

「そっそうですわ! お詫びにこの街を案内させてくださいまし…! わたくし、こう見えて、この街のでは顔が効く方なのですわ!」

 フィリアはエレナに頭を下げられて、ソワソワしだした。このまま何も言わないのも落ち着かないようで、小声でヴィレムに話しかける。

「(ヴィレム、彼女も謝っていますし……宿も恵んでくださる上に、街の案内もしてくださるようですよ。良い機会ですし、案内を頼みませんか?)」
「(……私はあまり信用できませんが…… 宿も確保できる上に、顔が利くなると情報が得られるかもしれませんね)」

 ヴィレムはかなり警戒しているようだった。

「いいんじゃないの? 宿まで紹介してくれるなんて、助かるよ。謝っているしここまでしてくれるなら断る必要無いんじゃない?」
アルトはエレナに対して引いているようではあったが、あっさりと受け入れた。

「アルト様っ……! このエレナにお任せくださいまし♡」
 エレナは身体をくねらせ、アルトに対して目を輝かせる。気がつけば普段の調子に戻っていた。

 が、その背後からリィがエレナに対して手刀打ちしたのだった。

「痛いですわ!」

「皆さんすみませんでしタ。エレナはこんなですが、変な行動を取りそうな時は、私が止めますのデ。宿の件も案内の件も私達が責任をもって紹介しまス」

 リィは真面目な少女だった。頭を下げ、エレナの無礼を詫びたのだ。

「わぁああ、頭下げないでください! えっと…貴方は」
「申し遅れました。リィでス」
「リィさん、案内お願いしてもよろしいでしょうか?」

 フィリアは程々に身分は高いが、頭を下げられることや自分を上に見られるのがあまり好きじゃなかった。

「ありがとうございまス。貴方はお心が広い方なのですネ。それではこちらニ」

 リィは胸の前に手のひらと拳を合わせ挨拶をした。フィリアが本で見た事がある、東の国の挨拶だった。エレナは暴走しがちだが、彼女はとても落ち着いており、責任感のあるしっかりとした少女だ。

「ではまず、宿に案内しまス。荷物を置いたら昼食におすすめのお店を紹介しまス」

 フィリア達はリィの案内で宿に向かうことになった。一行がリィついて行く中、エレナはちょっぴり俯いて後を追う形で歩き始めた。