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1章「精霊の森」

化学者兼錬金術師の青年アルトと出会い、行動を共にすることとなったフィリアとヴィレム。
まずは南東に位置する花の街〈フルール〉を目指す。


 アルトと行動を共にして3日。一行は楽しく話しながらフルールへと向かっていたが、『精霊の森』の広さに圧倒されていた。

「本当にこの森は広いですね…何日歩いたんだろう……」
「お疲れですね、フィー。この森は西の国〈ノインシュテルン〉の3分の1くらいを占めてますからね……」
「あと半分くらいって所かな、この辺が中間地点のはず」

「アルト様は、この森にとても詳しいのですね?」
「うん。僕はこの森で育ったから、幼い頃からよく駆け回っててね。そうしてるうちに」

「へぇ…… アルトさん、この森でおすすめの場所とか思い出の場所ってありますか? ボク達、ある場所を探していてヒントにならないかなって」
「そうだね…… この森に精霊が住んでいるって話は知ってるかい?」
「知っています。この森の緑を守っているという……」
「そうそう、その中でも下級精霊のマッシュ族って呼ばれている精霊がいるんだけど、彼らがよく集まる場所があるんだ。そこがとても神秘的なところで、ブルーベルがいっぱい咲いていたかな。幼い頃に彼らと遊んだことがあるんだ」

 アルトは懐かしそうに、そして楽しそうにかたっていた。まるで子供の頃の冒険や思い出を思い返すような優しそうな表情をしていた。

「ブルーベル…… 確かにこの森には沢山のブルーベルが咲いていますね。 ボク、青いお花がとても好きなので見れてとても嬉しいです。それに、精霊と仲良く遊んだことがあるなんて、とても清らかな心の持ち主なんですね。アルトさんは。」

 本来、精霊は強い魔力持ちにしか見えないという。特に下級精霊は子供や心が清らかな人間にしか見えないと言われているのだ。

「マッシュ族はどんな姿をしているんですか?」
「キノコだよ。個体によって傘の色が違うみたいだけど、僕は赤い帽子のマッシュ族に会った。喋れないけど、意思疎通は取れるくらい、気に入った人間には寄ってきてくれるっぽいかなぁ」
「興味深いですね」

 珍しくヴィレムは興味があるようだっだ。本来彼は、物や生き物は眺めている程度で良いくらいのスタンスだ。然しながら、鋭い洞察力を持っている。眺めていれば何となくわかるそんな感じなのかもしれない。

「ヴィレムが興味を持つのは珍しいね」
「ヴィレムくん、会ってみたい?」
「出来れば話がしてみたいですね」
「残念ながら、言葉は話せないなぁ。でも姿くらいは見れるといいね」
「そうですね」

「……」
3人が話しているところを一人の少女が木陰から覗き見ている
「たのしそうだなぁ」

「…?」
フィリアは何か気配を感じ振り向くが、そこには何もいない。
「フィー何かございましたか?」
「ううん。なにか気配を感じただけ、多分違うよ」
「何かございましたら仰ってくださいね」

 しばらく進むと、黒いフードマントを着た、怪しげな男性が立っていた。

「アルフレッド殿」
「……2人は下がっていて」

 アルトはいつもより声のトーンが低かった。フィリアとヴィレムはうなずき、後ろへ下がるー

「今日こそ共に来ていただきますよ」
「前にも言ったけど、まだ目的を果たしていない…お引き取り願うよ」
「いいえ。主から言われております。今回は必ずあなたを招けと」
「何度も言ってるけど、あなた達とは行けないって。……敵意でも示せばいいのかな。そしたら諦めてくれる?」

 アルトは基本的には戦いを好まない、非好戦的な性格だ。そんな彼が珍しく、黒いフードマントの男に敵意を放っている。

「あなたがその気ならこちらも力ずくでお相手しますよ? 人質はいますし」
「いや違うね、メルはあの場所を離れていない。……やっぱり、あなた方は信用出来ない。覚悟しろ!」

 アルトは短剣〈カーディナル・アゾット〉を取り出し構えた。敵の男も杖を構えた。
「闇よ集え!カオスシャドウ!」
先に動いたのは敵の黒装束だった。闇の下級魔術カオスシャドウを放った。
「よっと」
アルトは無詠唱で防御魔法のプロテクションを張って、カオスシャドウを弾き返した。

「…… ヴィレム僕達はどうしたらいいのだろう」
「そうですね、恐らくは彼らの戦いなので静観べきかと」
「……」
フィリアとヴィレムは後ろに下がり、ただアルト達の戦いを見るだけであった。

「グランフレイム!」
アルトは無詠唱で炎の下級魔術グランフレイムを放つ。
「プロテクション」
敵の男はプロテクションでグランフレイムを防いだ。
「……せっかく気分よく旅をできていたのに…… 先に攻撃したのは貴方だからね」

 アルトは短剣を構えたまま、その場に立ち止まり詠唱を始める。
「愚かな、防御魔法を張らずに詠唱を始めるとは。ならば食らうがいい!」
敵の男はカオスシャドウを連発して撃ってきた。

「燃え盛る真紅の炎、今ここに集いて、敵を燃やし尽くせ―」
アルトは短剣で魔術を弾きながら詠唱を続けた。
「なんだと、ただの短剣で魔術が弾き返せるものか!?」
「ふふっ、食らえ!イグニート・クリムゾン!」

 男は予測不可能な事態に焦りを見せる。一方アルトは余裕の笑みで、ポケットから薬剤が入った試験管を取り出し術名を唱える。そして、彼の得意な炎魔法である『イグニート・クリムゾン』を放った。

「わっ…! …?」
フィリア達では無い、他の誰かが驚く声が聞こえた。

 するとアルトが『イグニート・クリムゾン』を発動したと同時に、フィリアのブローチも輝き出したのだ。
「光ってる……これは……」
「……?いつもより火力が……」

「………」
気がつけば黒装束は気を失っていた、どうやら炎の渦を生成し酸欠になったようだ。
「ふぅ…もう勘弁して……」

「ブローチ…光ってた……」
「なぜ光ったのでしょうか…」
フィリアは自分がお守りとしてずっと大切にしていた、ブローチが急に光りだし驚いていた。アルトも戦いを終えて戻ってくる。

「2人ともごめんね」
「アルトさん大丈夫でしたか? 何やら大変そうでしたが……」
「ここ数年よく絡まれるんだ。最近はああやって武力行使してくるし……」

「なあにさっきの! とても光った!」

「え?だれ…?」
フィリアは何処からか声が聞こえたようで、当たりを見渡し始めた。
「フィーどうしたのですか?」
「さっき声がしたんだ。女の子の」
「どこにもいませんが……」
ヴィレムにもアルトにもその声は聞こえない。そして何も見えなかった。

「とりあえずここを離れよう、さっきの人達の仲間が近くにいるかもしれない」
「そうですね」
ヴィレムとアルトは身の安全のためにその場を去ろうとしている。

「えっ⁉︎ 待って!」
「また…… 聞こえた……! 誰? どこにいるの?」
フィリアは再び声を感じ取って、思わず聞き返してしまった。

「ここだよ! あなたのうしろ!」
「え?」
振り返ると、長い緑髪をツインテールにした少女が立っていた。

「わぁっ!」
フィリアは思わず驚き尻もちを着く。その衝撃で帽子が地に落ち、隠していた自慢の銀髪があらわになる。

「フィー大丈夫ですか⁉︎⁉︎」
ヴィレムはフィリアの帽子が落ちたこと、そして主であるフィリアの身に何かがあったのかと焦りを見せていた。

「女の子……!?」
フィリアには見覚えのない少女の姿が、アルトはフィリアの長い白髪が視界に入った。2人はとても驚いていた。