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1章「精霊の森」

アルトと共にフルールを目指す、フィリアとヴィレムは、道中アルトを狙う怪しい男と交戦する。
その後どこからか不思議な声が聞こえて―


「女の子……!?」
フィリアには見覚えのない少女の姿が、アルトはフィリアの長い白髪が視界に入った。2人はとても驚いていた。

「貴方、いつからそこにいたの⁉︎」
「??」
ヴィレムはフィリアが何かに向かって話している様子に追いつけなかった。もちろんアルトにもその姿は見えない。
「3日前の夕方くらいから! 楽しそうでずっと見てた!」
「全然気が付きませんでした……」

「フィー、誰と話しているのですか?」
「ボクの目の前に女の子がいるでしょ?」
「いいえ誰もいませんが…… アルト様は?」
「え? あ、僕も見えないよ」
アルトはフィリアが女性だった事と、訳の分からぬ状況に追いつけないようだった。

「もしかして精霊様なんでしょうか……」
「そうだよ! わたしはこの森を見守ってるの! 多分2人に私が見えないのは、認識されてないからかな」
「認識……?」
「はい! 転ばせちゃってごめんなさい。」
自分を精霊だと言う少女が、フィリアに手を伸ばす。

「ありがとうございます」
「フィーが浮いた?」
ヴィレム達には精霊の少女が見えない。当然手を借り起き上がったフィリアは浮いて見えたのだ。

「精霊様、貴方のお名前は?」
「わたしはルボワ。この森の精霊だよ!」
ルボワと名乗る精霊の少女はその場で一回転し、長く綺麗なツインテールを靡かせてみせた。

「ボクはフィリア。えっとルボワ、ボク手に貴方の手を乗せていただけないでしょうか?」
「うん!」
「アルトさん、ボクの手ひらの上に手をかざしてみて下さい」
「あっうん。あれ……誰かの手……あっ! 僕にも見えた!」
「うふふ、やったね!」
ルボワはアルトのリアクションを楽しそうに伺っていた。

「ヴィレムも!」
「失礼致します…… あ、本当です目の前に少女が見えます」
「見えるんじゃなくて、いるよ! ふふっ、わたし、みんな楽しそうで気になってずっと見てたの」
ルボワはとても嬉しそうな様子だった。嬉しくてひょこひょこ跳ねている。彼女の綺麗なツインテールもその度に靡いている。

「全然気が付きませんでした……」
「わたしね、認識してもらえないと見えないの、だけどさっき、私のペンダントが光って…… 気になって思い切っちゃった!」
「ボクのスカーフピンも光って…… そうしたらあなたの声が聞こえました」
「僕も……さっき魔術はいつもよりも強かった」
予期せぬ状況に一行は頭が追いつかない。すると向こう側から先程、交戦した黒装束の男に似た集団が見えた。

「アルト様、あの方たちも先程の黒装束の仲間ですか?」
「わ……また……ごめんね、場所を変えよう」
「追われてるの?」
「ああ」
「ならこっち来て! 安全な場所にいこう! 案内してあげる!」
アルトは黒装束に見つかりたくない一心だが、ルボワは何処か楽しそうだった。そして一行はルボワに案内され安全な場所へと向かう。

「さぁ、お話しましょ!」
ルボワが言う、安全な場所にたどり着いた3人。ルボワは嬉しそうに、にこやかに、お話しようと3人に視線を送った。

「ちょうどいいです、休憩しましょう」
「そうだね」

 ヴィレムは魔術で格納していた、シートを広げお茶の準備を始める。そして、4人はくつろぐ。
「さぁ皆さん、紅茶です」
「ありがとうヴィレム、喉乾いてたんだ」
「わぁい! いい香りがする!そうそう、あなた女の子だったのね!」
ルボワは興味ありげにフィリアを見つめる。

「僕も驚いたよ、何か理由があるのかな」
「驚かせてごめんなさい」
横目でヴィレムを見るフィリア。そしてヴィレムは頷く。

「ボク……いや私は自分の身分を隠して旅をしています。年齢も10代半ばですし、狙われやすいとの事で男装をしていました」
フィリアは恥ずかしそうに視線を外し、正直に話した。

「そうだったんだ…… どことなく女性らしく見えるところもあったけど」
「ばれてましたか……」
「言われなかったら疑いもしなかったよ。喋り方が丁寧だかどこかのら貴族様かなとは思ったけども」
「……ええと、そんなところです」

「私も全然気が付かなかった! 女の子だったなんて! わたしと同じだね!」
ルボワはとても嬉しそうだった。
「はっはい……」
フィリアは少し照れる。しばらくの間、男装をしていたからだろうか。その雰囲気に慣れることが出来なかった。

「すみませんが、この事はどうかご内密にお願いします」
「……イレギュラーでわかってしまった事だけど…… ずっと隠してきたことを、告白してくれたんだね。もちろん。僕もさっきのこと説明しなきゃね」
アルトは真摯に受け止めてくれたようだ。そして自分も言うべきだと思い、打ち明けようとした。

「無理に答えなくて大丈夫ですよ?」
「いいや、もしかしたらまた追いかけてくるかもしれないから。巻き込んでしまう可能性があるなら話すよ。もし、身の危険を感じたら僕は別行動するし」
「そんな……」
せっかく出逢えたアルトと別れるかもしれない……そう考えたらフィリアは気持ちがしゅんとしてしまった。

「フィリアさん。ありがとう。彼らは僕の魔術と血が目的なんだ」
「魔術は分かりますが…… どうして血なのでしょう」
「僕は異質な魔力や、様々な魔術などに長けた一族の末裔。最近、その血族を束ねようとしている人がいるらしく、勧誘を受けてるんだ。妹を人質に」
「人質ですか…」

「僕の妹は足が悪くてね。あっでも僕が防御結界張っていて、安否は分かってるから大丈夫。でもね、僕が離れて手掛かりを探していることを逆手に取られて、僕を仲間に引き入れようとしてくるんだ。……僕はあの人たちの手を借りずに、メルを助けたい」
いつも穏やかな雰囲気なアルトだが、とても真剣な表情で自らの事を語った。それ程に、実妹のことを思っているのだろう。

「妹さん、メルって名前なんですね」
「うん。メルフィ。フィリアさんと同じくらいの歳だよ多分。読書が好きなんだ」
「いつかお会いしてみたいです」
「はは、きっとメルも喜ぶよ」

「いいなぁ、私も会ってみたい!」
「ルボワ様は、メルのこと見たことあるかもしれないよ」
「そうなの?」
「うん。僕達はこの森に住んでるから、何処かで見かけていそう」

「そうなんだ! ふふっ探してみよう! ……うふふ」
「ルボワ様? どうしたのですか?」
「わたしね、こんなに人とお話した事があまりないの! それですごく嬉しくなっちゃった」
ルボワはフィリア達とお話出来ることを心から喜んでいる様子だった。

「もしかして、姿が見えなくて……?」
「うん。昔、ウィンって名前の女の子と友達になったけど、ウィンは…… その時以来会えてないの…… でもね、いつか会えるって思ってるよ。この森にいれば。あとはマッシュ達がいるから……」
ルボワは悲しそうな、寂しそうな表情をしていた。

「その方はどんな方だったのですか?」
「少し目付きが鋭くて、でも優しくて…… わたしのはじめての友達。記憶が無いって言ってたかな。緑色の髪の女の子だよ」
「良き出会いだったんですね。ルボワ様とても楽しそうな表情をしています」
「うん! また会いたいなぁ」
ルボワは良き思い出を思い出し、幸せを噛み締めているような気もしたが、その奥には何処か悲しそうな、寂しそうな……そんな雰囲気があった。フィリアはそれを何となく察した。

「……! 楽しい話をしましょう! アルトさん旅の話を聞かせてくださいませんか?」
「うん。もちろん。」

そして4人はティータイムをしながら語り合った。

「(よかった、ルボワ様も楽しそうにしている……)」
フィリアには、自分自身があまり外に出れずに今まで過ごしていた過去がある。それ故か、ルボワの孤独を何となく感じ取ってしまい、話題を逸らしたのだった。

「ねぇフィリア、わたしと友達になって!」
ルボワは唐突にフィリアに対して自分の友人になるよう持ちかけてきた。
「ともだち… ですか?」
「うん!だめかな…」
「違うんです。ボク、友人を持ったことがないもので」
フィリアには特別友人らしき存在がいなかった。いつも隣にいるヴィレムはどちらかと言うと、兄妹に近い家族のような存在だ。

「じゃあ、わたしをはじめての友達にして! だめ?」
「ボクでよろしければ… いえ、こちらこそ私のはじめての友達になってください」
「うん!!」
ルボワは花開くように満面の笑みを浮かべて、フィリアに抱き着いた。

「わっ!」
「ふふ、フィリアいい匂いする。髪もふわふわしてる……」
「ルボワ様、恥ずかしいです」
「ルボワでいいよ。友達なんだから。ヴィレムもアルトも!」
「わかった、よろしくねルボワ」
「うん、こちらこそよろしくね! アルト!」

「ルボワ……はずっと1人だったんですよね」
「うん……」
ルボワは依然としてフィリアに抱きついている。フィリアは、そんなルボワの頭を優しく撫でた。

「貴方はすごいです。ずっと1人でこの森を守って。この国が誇る緑をずっと守ってきたんですね」
「ふふ、そんなこと言われたのはじめてだなぁ」

『きゅ…』

すると、フィリアの後から何かが触れる感覚がした。
「? ……キノコ? もしかしてマッシュ族? ですか?」
シートに座るフィリアの腰あたりに、赤い傘のマッシュ族がいたのだ。ルボワがフィリアに抱きつくように、マッシュ族もフィリアを背中側から抱きついているようだった。
「かっかわいい〜です!」

「本当にキノコなんですね」
ヴィレムは珍しく目を輝かせマッシュ族を眺めていた。
「久々に見たなぁ、この個体は赤色だ」
「来てくれたの? 大丈夫だよ、ここにいる人たちはみんな良い人、わたしの友達だよ」
ルボワはフィリアから一度離れ、彼女に抱きつくマッシュ族に声をかけた。

「きゅう」
「ルボワは話せるんですね」
「うん」
「!」
すると、マッシュ族がフィリアの膝に乗ったのであった。

「わわわわ」
「ふふ、フィリアは綺麗な心の持ち主なんだね! 普通初対面の人間にはこんなに近寄らないよ」
「? あれ、どうしたのヴィレムくん?」
ヴィレムは顔を手で覆っていた。そして僅かに震えていた。
「いいえ、なんでもありません」
どうやらヴィレムは、愛らしい主であるフィリアと珍しく興味があるマッシュ族の、あまりにも可愛らしい構図に心を打たれたようだった。……言えない。『可愛いです。素敵です。もっと間近で見たい』そんな事はこの場では言えない。ヴィレムは爆発寸前の大きな感情を、自らの顔を隠す事で抑えていた。彼は1人で戦っていた。

「こんにちは。ボクはフィリアです」
「きゅう」
フィリアの膝の上に乗っているマッシュ族は嬉しそうに手を叩き、帽子のような赤い傘を揺らし始めた。

「わぁっ! ヴィレム見て! とても可愛いです」
「はい、フィリア様」
ヴィレムは当然『写真撮りたいです……主……』なんて事は言えずに、一周まわって貼り付けたような笑みで返事をした。……ヴィレムもそろそろ限界なようだった。

ずどん。

遠くから大きな爆発音のようなもの聞こえた。
「ん''に''ぃ''!」
フィリアの膝に乗っていたマッシュ族は驚き震えている。
「なんの音だい?」
「木が倒れる音…ですか?」

「大変…… 行かなきゃ……」
ルボワは危機を察知したようで、現場に向かおうとする。
「ルボワ! ボクも行きます。貴方の為の役に立ちたいです!」
「! ありがとう! こっちだよ」

一行はお茶の道具を片付け、木の倒れた音がした方へと急いで向かった。