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1章「精霊の森」

フィリア達3人は、ルボワと言う精霊の少女と出会う。アルトを狙う黒装束との交戦を終え、休憩がてらにティータイムをしていた。ところが突然、遠くから炸裂音が聞こえ、その場に向かった。


ずどん

 突然何かが倒れる音が聞こえ、フィリア達はその音の元凶たる場所に向かう。そこには1人の少年が立っていた。

「あー!! また貴方ね!!」
「ん?」
「ん?じゃない〜!! だめって言ったでしょ!!」
「はぇ〜」

 そこには小柄ながらも、立派な斧を持った少年が首を傾げて立っていた。真ん中分けの短髪。白髪に少しだけ柳色のようなメッシュが入っている。糸目でにこにこしており、瞳の色は分からない。外見からは想像できない小柄な身体と細腕で、斧を振り回し木を切り倒していた。

「男の子……?」
「ちょっと君……! どうしてこんなことを?」
「?」
少年は首を傾げ、なんの事やらと状況が分からぬ様子だった。

「話せないのですか?」
「しごとです〜 ぼくのしごとは、きをきりたおすことなんです〜」
少年は、馬鹿力だが喋り方は異様に穏やかで、気が抜けてしまうような声色だった。

「だから〜!! この森の木はダメだって前から言ってるでしょ〜!!」
ルボワはどうやら彼のことを知っているようだ。またかと腹を立てている。

「…」
少年は再び斧を振りかざすが、ヴィレムが止めに入るー
「そこまでにしていただけませんか?」
ヴィレムは彼の腕を掴み動きを止めた……
「いやです」
「⁉︎」
ヴィレムは少年の腕を掴み木を切り倒すところを止めたが、彼の馬鹿力に振り切られ、止めることが出来なかった。

「なに……」
「うそ……ヴィレムが押しきられた……」
少年の予測不可能な行動に一行は、ど度肝を抜かれる。
「わぁ〜 あぶないですよ〜」
「彼は何者なんだ!?」

「分かったら苦労しない! もうやめてよ〜」
ルボワも頭を抱えて、嘆き出した。

「あの、話を聞いていただけませんか」
フィリアは恐る恐る彼に声をかけた。
「しごとがあります」
「……あなたの仕事に関わる話です」
「んえ〜 わかりました」
意外だった。フィリアは何となく仕事に関わる事として言っただけだったのだ。そんな様子をヴィレムは『意外とあっさり……』と拍子抜けした様子で見ていた。

 何とか暴走する少年と話の場を設けることが出来た一行。その少年はどこか子供じみていて、話はしやすさはありつつも、どこか通じない。そして、あのように暴れられては、止められる人もいなかったのであろう。
 彼を止める手立ては無いだろうか…… そう思ったフィリアはヴィレム達と共に尋問をすることにした。

「ボクはフィリアです。貴方のお名前は?」
「わぁ、フィリアさんよろしくおねがいします〜 ぼくは、キナリです〜」
「キナリさん、よろしくお願いします。えっと、貴方はいつからこの仕事を……?」
「う〜ん、いつからでしょう〜」
「覚えてないの?」
「きがついたらです〜」
果たして尋問されている……と言う意識はあるのだろうか。……いや無いだろう、そんな調子の返事を返される。今のところ、『キナリ』という名前しか分かっていない。

「どうしてこの仕事を……」
「しごとだからです〜」
「で……では……貴方はに仕事を与えた方は……」
「……? う〜ん? おもいだせません…?」
「え……」
「?」

 質問すればその質問を返される。考えさせても分からない。彼に問いかけても何も帰ってこないのだ。そうとなれば森の管理者であるルボワに頼るしかない。フィリアはルボワに聞いてみることにした。

「ルボワ…… 彼とはいつ知り合ったのですか?」
「20年くらい前かな?」
「20??」

 アルトは驚き、思わず聞き返していた。ルボワは精霊だ。然しながら、外見は12歳くらいの少女。無理もない。

「私400年くらい生きてるんだよ。うーんでも、キナリはずっとこのままだねぇ? 見つけた時から変わらない気がする」
「400……⁉︎ やはり精霊は長寿なんですね」
フィリアも驚いている様子だ。

「ですが一体どういうことでしょうか…… その…… 彼はどう見ても10代半ば程の年齢に見えます」
「〜?」
「……」
フィリアはどうにかして彼を止める方法はないかと考えていた。

「ぼくにはわからないですよ〜」
「知りたいと思いませんか?」
「? 何をです〜?」
「ええと、どうして働いてるのか…… とか、20年前と姿が変わらないこととか……です」
「ぼくはこまってませんよ〜」

「でも、この森では木を切ってはいけないんです…… このままでは、何も出来なくなってしまいます……」
「! それはこまりますね〜?」

 フィリアにも彼がどうするべきかは分からなかった。本来物事を決めるのは己。ただ、彼には意思は無く、やらなければならない義務感も何となくしかない。どうにかして彼を導くしか無かったのだ。

「ヴィレム、彼のことを何とかしてあげたいです」
「そう仰ると思ってました。フルールや途中の集落で彼の事を聞いてみましょうか」
「ちかくのまちにいくのですか?」
キナリは首を傾げて問いかけてきた。

「キナリさんが良ければですが……」
「う〜ん、なんだか、ぼくにかかわることみたいですねぇ〜 しごともだめなら、ついて行きます〜」

 森の管理をしているのはルボワだが、彼女は外の世界…… 森の外に出る事を許されていない。ルボワは彼を導こうとしてもできなかったのである。

「あっさり…… 決まりですね、キナリさんよろしくお願いします」
フィリアはキナリを導けたようで安堵した。
「さんはいらないですよ〜? え〜と、おせわになります……?」
「疑問系なんですね、キナリは」
「あはは〜 ぼく、わからないことがたくさんですから〜」
行動が突飛でなければ、癒し系な少年に間違いないキナリ。彼の笑い方や語尾はとても不抜けていて、話しているとこちらまで力が抜けてしまいそうになる。

「キナリは子供みたいだね!」
「あなたもこどもみたいですよ〜?」
「私は精霊だもん!」
「ふふ」

 ルボワはキナリに対して、子供みたいだと勢いよく言ったが、あまり説得力がなかった。実際ルボワは無邪気で姿は12歳くらいの少女。感性のまま生きているその雰囲気は、キナリに言われたように、子供のようなのだ。そんな和やかな会話を、フィリア達3人笑いながら見守った。

ガサッ……

 キナリの説得を終えたフィリア達だったが、草むら音が聞こえた。マッシュ族が顔をのぞかせていた。

「貴方はさっきのマッシュ族ですか?」
「にい」
「また会えましたね」
「にい!」
どうやら先程フィリアに近寄ってきたマッシュ族だったらしい。とてもフィリアに懐いていようで、和やかな笑顔で彼女の前に立ち、飛び跳ねている。そして、フィリアを引っ張り出す。
「? 着いてきて欲しい……のですか?」
「にぃ〜」

 マッシュ族に案内され、着いて行く一行。
その場所は、ブルーベルの花々が咲き誇る花畑だった。家が2軒分くらい立てられそうな広さがある所に沢山のブルーベルが咲いているのである。まるでブルーベルが咲くためだけに作られたような幻想的な空間だった。

「ここは……もしかして……」
「すごい…… きれい」
「ここ! ブルーベルいっぱいの花畑!」
「見事ですね」
一行は感嘆の声を上げた。昼下がり、少しだけ太陽が傾いた時間。遠くに植わっている木々の間から程よく刺す陽光。花に寄ってきた蝶々もとても嬉しそうだ。

「僕が言った場所だよ、ここ。昔メルと来たところだ。まさかまた来れるとは。」
アルトは懐かしい気持ちでいっぱいな様子だ。

「にい!」
「ありがとうございます! 素敵な場所に連れてきてくださって」
マッシュ族はフィリアの膝下よりも小さい。そのサイズは30cmも無い。彼女は微笑みかけ、屈んでマッシュ族の頭を優しく撫でた。
撫でられたマッシュ族は「んにぃ〜」と高い声を出し、喜んでいた。

 ヴィレムはまたもや『とても可愛らしいです…… フィリア様』と言う主に対しての大きな感情を胸に秘め、貼り付けたような笑みをしていた。どうやら彼は喜びを隠そうとすると、貼り付けた笑みを繰り出すらしい。

「ヴィレム、ここはアルトさんにとっても特別な場所ですし…… マッシュさんと遊んでもいいですか?」

 ヴィレムは『(あの癒しを間近で見ていいのか…… 先程のティータイムも中断してしまったし)』と私欲まみれではあるが内心考えていた。
アルトもブルーベルの花畑をずっと眺めている。

「……せっかくです、ここで休憩しましょう」
ヴィレムは休憩を提案し、2回目の休憩に入った。

 フィリア達は慌ただしくしていたが為に、昼食を忘れていた。時間が中途半端だった為、ヴィレムは簡単なサンドウィッチを作り5人は茶を啜りながら休憩していた。
そこにしばらくすると、1匹のマッシュ族が現れた。

「に」

 黒色の眩く輝くサングラスをかけた、いかにも只者ではないマッシュ族が現れた。基本的には気が弱いマッシュ族に比べとても威勢のいいマッシュ族だった。

「ムッシュ!」
ルボワはそのマッシュ族を知っているようだった。

「にっ」
「どうしたの?」
「にっ」
「うんうん」
フィリア達には何を話しているのか分からない。ルボワには分かるようで、ムッシュと呼ばれるマッシュ族の話を聞いているようだ。

「ルボワ? 如何致しました?」
「えっとね、……彼はマッシュ族の頭領! ムッシュ・キノコだよ!……そこの少年!」
「ん?」
ルボワはまるでムッシュになりきるように、張り切ってキナリを指さした。もちろんその足元には同じポーズをとるムッシュもいる。つぶらな瞳に変わりは無いが、とてもキメ顔をしているのは明白だ。面構えが違う。

「オレ様と戦え! ……だって!」

「どうしてです〜?」
「お前の一切動揺しない強靭な精神…… 同胞を驚かす身体能力…… 気に入った! オレ様とダンスバトルだ!……だって!」
大層、ムッシュもとても乗り気で威勢よくキナリに決闘を申し込む。ルボワもいつもの明るく無邪気な少女の雰囲気とは別で、ムッシュになりきりとても楽しそうだ。

「どうしてダンスバトルなんだろう…」
アルトは小さな声で突っ込んだ。

「にぃっ!」
ムッシュはアルトに指を指した。……と言ってもマッシュ族はミトンのような手をしており、指ははっきり見えないのだが……

「甘いぞ! 若造! 踊りとは己の感情を、身体で表現する素晴らしき表現法だ!」
ルボワ…… いや、マッシュはとてもキメ顔で言い切った。
「なっなるほど……」
アルトもよく分からずに、と言うより引き気味で押し切られた。どうやら話についていけないらしい。

 フィリアは面白そうに自分もと手を振るが―
「面白そうですね! ボクも一緒に……」
「その必要は無い! 君は既に我が同胞!」
「え?」
「清き清純な心を持ち、イカした帽子、そして我が同胞に認められている!」
フィリアはどうやらムッシュに認められているらしい。

「帽子? ああ! なるほど! ふふありがとうございます!」
フィリアは嬉しそうだった。その様子を後ろから見ていたヴィレムは、またもや顔を手で覆い『フィリア様の御姿が……後頭部が、マッシュ族に似ているからこその運命だったのですね……尊い……』などと心の中で供述していた。

「きゅう」
「ふふ」
フィリアに懐いたマッシュ族は、嬉しそうにフィリアを見つめながら笑っていた。
「んあ〜 わかりました〜 やってみましょう〜」

 そしてムッシュキノコとキナリのダンスバトルが始まった―

 ブルーベルの花畑の中心で熱いダンスバトルを繰り広げるキナリとムッシュ、それを見ながら話をする4人。
すると、フィリアの事を気に入ったマッシュ族は、フィリアにブルーベルの花を摘み手渡しに来た。

「きゅう!」
「わぁ、ありがとうございます! 本当に素敵なお花ですね、ブルーベルは! いい香りです」
フィリアはマッシュ族からブルーベルを受け取り、笑顔で答えた。
「きゅっ!」
「押し花にして思い出の品にしますね」
マッシュ族は嬉しそうに『に!』と頷いてみせた。

「あっあの、その…… 抱っこしてもいいですか」
フィリアは懐いたマッシュ族に、恐縮ながらも抱っこしても良いか問いかけた。
「きゅ!」
マッシュ族は嬉しそうに頷いて、小さな体でフィリアに抱き着いた。
「嬉しいです」
フィリアはマッシュ族を持ち上げ抱きしめた。
「ふふっ」

「ふふ…」
ヴィレムは穏やかに笑っていたが、内心はフィリア様可愛いですメーターの限界を迎えていた。

「その子は本当にフィリアの事を気に入ったんだね! マッシュ族は人に近寄らないし、触れられる胞子で攻撃するんだ」
「そうなんだ、メルにもまた会わせてあげたいなぁ。マッシュ族さん、もし僕の妹と会う機会があれば、仲良くしてあげてくださいね」
アルトは1人で待ち続けている妹が心配だった。
「きゅう? ……!」

 フィリアを気に入ったマッシュ族は、再びブルーベルを摘み行き、アルトに手渡したのだ。
「ありがとう! メルは花が好きなんだ。きっと喜ぶよ」
「にっ!」
どうやらアルトにも少しだけ懐いたようだ。

 一行が休憩を初めて時間が経った。キナリとムッシュは熱いダンスバトルを続けている。そうしているうちに日は落ち始めていた。

「日が落ち始めたね、今日はこの辺りで休もうか」
「そうですね、おふたりは…」

 キナリとムッシュは変わらず踊り続けていたー

「あはは。おふたりさん! 日が落ちます、そろそろ休みましょう!」
フィリアはそろそろお開きにしようと声をかける。

「にっ…!」
「んー? 『良きライバルを見つけた!また踊ろうではないか!』です〜?」
「に!」
「キナリはムッシュの言葉が分かるようになったのですか⁉︎」
ここに来て、キナリがマッシュの言葉を訳し始めたのだ。フィリアは驚いている。

「なんとなくですよ〜 あは〜」
「にっ!」
最後にキナリはムッシュと熱い握手を交わした。またここに1つ新たな友情が芽生えたのである―

「えっとぉ〜 ぼくがつかっている''こや''が、ちかくにあります〜 いきましょ〜」

 どうやらキナリが寝泊まりしている小屋が近くにあるらしい。一行は言葉に甘え、キナリの小屋へと向かったのであった―