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1章「精霊の森」

森で大暴れしていた木こりの少年・キナリを説得したフィリア達は、流れでアルトの思い出の場所に辿り着き、休息を取っていた。気がつけば、日が落ちかけており、近くにあるというキナリの小屋に行くことになった。


「わーここです〜!」

 キナリに案内され彼が寝泊まりしているという小屋にやってきたフィリアたち。キナリが使っているという小屋は、かなりボロボロで廃れた小屋だった。嵐が来れば屋根は飛びそうなくらいには、風化が進んでいる。

「……こんなところにあったんだ〜 どうしてるか気にしてたんだけど……」
「ほんとに小屋です。でも……随分と年季が入っていますね」
フィリアはとても心配な様だった。それも当然だ。育ちがいいフィリアには、そもそも人がこの様なボロ屋で過ごせるものなのか……そこからが疑問だった。

「こんなんですが、つかってください〜」

 キナリは満更でもないようだ。一体どうやって彼は生きてきたのだろう。

「キナリ様、調理器具などはございますか?」
「ないですよ〜?」
「食事はどうされてたんですか…?」
ヴィレムは今晩の夕食の準備のために、調理できるところや道具があるか、キナリに問いかけたが、またもやキナリに返された。

「ん〜と、おさかなときのみをたべてましたよ?」
「料理……しないんですか?」
フィリアは思わず料理はしないのか聞いてしまった。
「しないです〜」
「キナリ様は…… なんでも食べられるんですね……もしかして不死身なんでしょうか。普通なら倒れてしまいますよ」

 ヴィレムは料理が得意だ。そのため、野菜や薬草等にも詳しい。そして、謎に毒薬にも詳しい。どうやら、大昔サバイバルまでしたことがあるらしい。それ故か、調理をせずに食事を摂る危険性を知っている。この様子ではキナリは処理もせずに食べている…そんな気がしたのだ。

「あは〜」
「では私が腕を振るいます!」
どうやらヴィレムは、滅茶苦茶な食事をしているに間違いがないキナリに対して、美味しいものを食べさせてあげようと、内なる炎を燃やしているらしい。
「ヴィレムが作る料理は絶品ですよ。頰が落ちるくらい!」
ヴィレムの料理が大好きなフィリアは、両手を頬に当てながら答えた。
「''ほお''がおちたらたいへんですよ〜? でもそれはたのしみです〜」
キナリは語彙力がとても欠落しているようで、冗談も通じない様だ。



 ヴィレムは魔法で道具を取り出す。彼はいつも背中に背負っているサッチェルリュックに自分の荷物を保管している。

 この世界では、旅人は携帯魔法という物を小さくし魔素〈エーテル〉として自身の魔力と共に格納する魔術が存在する。言わば圧縮のようなもので、魔術に組み込んだ決められた量まで道具がしまえる便利な魔術だ。

 魔術師たちが編み出した奇跡の業とも言えるが、魔力で質量を抑える荒業でもあるため、魔力維持が得意なものにしか扱えない。

 その為、魔力維持が苦手な者は携帯魔法に組み込む物質量を減らし、物を小さくするなどして扱う。
携帯魔法は二段階までかけることが可能で、大半の者は身軽になれるため中身と器の鞄本体に魔術をかける事が多い。

 ヴィレムは魔術があまり得意では無いため、リュックの中に小さくした道具をしまっている。その代わり二段階目のリュクはそのままのサイズなのだ。

 そして夕飯の支度が始まった。
その間に、フィリアたちは小屋の様子を見に行く。キナリが住んでいるという小屋は、管理人の休憩スペースと、家畜を飼っていたであろうスペースが、壁を隔てて隣合った正真正銘の畜舎だった。農業用の道具に、その場にはいないが家畜に使わせていたであろう傷んだ藁。家畜用のスペースを隔てているであろう、壁は何があったのだろうか、半分大破していた。

 大破した壁の向こう側には、2人用のローテーブルと、椅子が二脚、シーツが敗れたセミダブルのベットが1つ。簡易のキッチンや、シャワースペースもあるが水は出なかった。どうやら断線しているらしい。外にはかろうじて生きている井戸があった。

「キナリ君はこのベッドで寝てるの? ビリビリだけど…」
「いえ〜? ぼくはこっちです〜」

 アルトは疑問に思ってキナリがどこで寝ているか問いかけた。そして、キナリは指を差した。しかし、彼が指さしたのはまさかの藁。畜舎の方だ。

「…… ここは家畜が寝る場所じゃ……」
「? でも''わら''のかおりはおちつきますよ?」
育ち良いフィリアはそもそも人は地面で寝るものなのか?と頭の中に疑問を抱え、思考を巡らせていた。旅中野宿になった時は寝袋を敷いて寝てはいるが、そもそも家畜小屋で寝るなんて聞いたことがない。

「自然の香りがするってやつですか?」
「……でもこれ、随分傷んでるよ……」
「………」

 フィリアは、当てずっぽうではあるが小屋で寝る理由を自分なりに必死に考えていた。正直考えることではない。明らかにキナリがずれているのだから。

「……?」
「とっとりあえず…… 寝れるくらいには片付けしようか、ヴィレム君が夕食を作ってくれてる間にさ」
「そ、そうしましょう」
3人はとても気まずかった。それでも、寝泊まりする場所を借りるのだからと、最低限片付けはできると踏んだアルトは掃除をすることを提案した。

 フィリア、アルト、ルボワ、キナリの4人での片付けが始まる。片付けをしているうちにわかったことがある。

 その小屋は、農業や畑仕事をするだけの最低限の設備しかない事。1人〜2人の世帯だったが、今はキナリが使っていること。彼は特別なにも触れても持ち込んでもいないこと、元の住民の私物もほとんどなく、仕事に来ていただけに見える。

 傷んだ藁は一度外に出し、簡単に掃き掃除をする。居住スペースも一通り拭き掃除等をして一晩は過ごせるように掃除をしていく。
問題は寝床だ。果たしてこの狭い小屋に5人が寝れるのか。抗議の結果、セミダブルのベッドには小柄で女性のフィリアとルボワ、家畜小屋の方には男子3人の割り振りになった。
自分達だけベッドで寝ることに引け目を感じたフィリア達は、ルボワと相談し簡易的なベッドを作った。
元々敷いていた藁にルボワの魔法により呼び出した植物を乗せる。ルボワは『いつもこうして寝てるんだ!』意外と気持ちいいんだよ!と自慢げに答えた。
これで3人は身体を痛めることなく寝るれるであろう。

 そうこうしているうちに、ヴィレムから声がかかる。
どうやら夕食の準備が出来たようだ。

 部屋に5人が入るには狭いため、室内にあったテーブルを外に運び出しておいた。ヴィレムはテーブルに夕食を準備してくれたようだ。

「おまたせしました。今夜の晩御飯ですよ。どうぞお召し上がりくださいませ」

 今夜のメニューはシチュー。他にも、これまでの道のりで拾った木の実を使ったサラダも並んでいた。

「これは……!ヴィレムくんが作ったシチューかい?」
アルトは喜びと驚きが混じったリアクションをした。とても良いリアクションだ。嬉しそうに見える。
「そうですが……もしかして苦手でしたか?」
「ううん違うよ、むしろ逆なんだ。僕の大好物」
「そうでしたか、お口に合いましたら光栄です。さぁ冷めないうちにどうぞ召し上がってください!」
「いただきます!」

 ヴィレムのシチューを美味しそうに食べるフィリアとアルト、キナリは何を考えているか分からないがにこにこしながら食べている。
精霊であるルボワは食事は必要ないが、食べることもできる。彼女こそ料理はしないため、人間の食事には興味があったようで、とても嬉しそうに食べている。

「おいひい!! 私、人の手料理食べるのいつぶりだろう……泣いちゃいそう」

 ルボワは基本に的人に見えない精霊。誰かが落としていったものや、自分に認識して貰えた人からしか物事を得ることか出来ない。それも今まで話した事がある人間は片手で足りる程度。その1人にご馳走になったのだろうか。

「頬が落ちそうでしょう? ルボワ」
「うん!! フィリアはいつもヴィレムのご飯食べてるの?羨ましいよ〜!」
「ふふ、ルボワは精霊だから食事は必要無いんだよね…… 何か食べたいって思った時はどうしてたんですか?」
フィリアはフィリアで、精霊のルボワがどのように生活をしているのかが気になった。

「私は木の実とか、ハーブティー作って飲んでるよ」
「ハーブティー。ルボワ様、興味があります」
ヴィレムは料理が得意だ。特にティータイム関連の情報は、彼にとって興味深い話だった。

「ほんと! 私はカモミールが好きなんだ、沢山咲いてるところがあるから見つけたらご馳走させてね」



 楽しい食事の時間、ヴィレムは料理、フィリアたちは掃除をしたことで、ひと仕事した後のゆったりとした時間は心地よかった。その中、アルトは皆に問う。

「ところで、明日はどうする?」
「そうですね、私たちが向かうのはフルール。明日出発して…… どこまで行けるでしょうか」

 ヴィレムは地図を広げる。精霊の森の正式名は『フォレルの森』。西の国〈ノインシュテルン〉の中心にあるとても広い森。森の中にいくつか集落や街が存在する。
フィリア達が現在いるのは、王都〈リヴェリウム〉から南西。フィリアとヴィレムは、夢に出てくる幻想的な『青色の花畑』の手がかりを探すため、森を探索していた。目指しているフルールは花の名産地。世界中の花を集めた植物園がある。探している場所が何処にあるか分からないため、森を探索していたのだ。そうしている間にアルト達に出会った。

 現在地からフルールは若干南東方面。後3日ほどかかる。
「今の場所はだいたいこの当たりでしょうか。そうすると……3日はかかるでしょうね」
「ちょっと待ってね!」
 ルボワは急に立ち上がった。すると、草木で出来た彼女の杖〈コロール・フォイユ〉をかまえ精神を統一し始めた。寝や木の幹が絡み合ったような長めの杖で、先端には緑色の水晶と、リースが付いている。リースには彼女が好きな花や木の実が彩るように飾られている。

 彼女が杖を構えると、瞬間周りの草木が緑色に輝き始める。ルボワに同調しているのだろうか、辺りの魔素〈エーテル〉が緑色に光って見える。ルボワのツインテールが宙を舞う。その光景はとても神秘的だった。
フィリアは思わず『きれい……』と声を漏らし、目を輝かせ周りを見渡した。

「うん見つけた!」
ルボワは何かに気が付くように、元気に答えた。
「今はこの当たり。間違いないよ、みんなに聞いたから」
「みんな…?」
「うん、私ね草木の声を聞けるの。この辺にいるみんなに聞いてみたんだ! 結構色んな所歩いた気がしたから」
森の管理者としての力なのだろうか、ルボワはどうやら草木の声や人間の言葉を話さない種族の言葉が分かるようだ。

「それはそれは…… ルボワ様助かりました」
「えっへん! これは私がこの森の管理をしてるからできる事だよ!」
ルボワは胸を張って自慢げに答えた。この森から出られない自分にも、できることがあると嬉しそうにしていた。

「森の管理……と言うことは……君もしかして、この森の守護精霊なの?」
アルトはルボワに問いかけた。守護精霊。それは森や海、山などを守る上級精霊のことである。その地形に応じた力を持ち、対話する能力を持つ。その代わりその場所から出ることが出来ない。いわば地縛霊のような存在だ。

「うん。この森のことは大体把握出来る! でも出られないんだ、それが悲しいな……だから、森が美しくあれるように草木と対話して、時には力を使ったりしてこの森を管理してる。道行く人が安心してこの森を抜けられるように……ね! それが私のお仕事だよ」

 ルボワは誇らしげに語る。然しながら、フィリアはそんな彼女が何処か哀しく見えた。
「……」
「すごいや…… 色んなところを旅しているけど、上位精霊とは出会ったことないよ」

『ルボワ様、助かりました』ヴィレムは礼を言うと、明日のルートを即座に示し皆に説明した。

「今晩ここで1泊し、明日の朝に南東を目指して出発します。明日の目標はこの辺りの川、野宿に水場は重要ですのでここまで歩くのは確定です。また、出来ればですがキナリ様の手がかりも探索しながら南東を目指すことになります」

「わっ〜 たすかります〜 みなさんよろしくおねがいします〜」
キナリはいつも通り、ゆっくりとマイペースに礼を伝えた。
「キナリのこと色々分かるといいね。あっそうだ、気なることあったら私が草木達みんなに聞くからね! 植物は長生きだから何か知ってるかもしれない! これは私のお仕事だね!」
「ルボワの活躍楽しみにしてるね」
「へへっ、任せてね!」
上位精霊の彼女に対して興味津々なアルト。ルボワは自分の力が役に立てることを心から喜んでいた。本来、森を守る使命感や義務があってこその力だったからこそ……

「……」
「フィー?」
フィリアは心の奥底に潜ったように無の表情をしていた。主の様子が気になったヴィレムは声をかける。

「あっ、ごめん! はは……考え事してた……大丈夫だよ」
「今日は色んなことがありましたね。お疲れでしょう」
ヴィレムは寄り添うように微笑んだ。こういう時フィリアは、料理裁縫が得意で親身なヴィレムに対して一般家庭の母親のような人だと錯覚する。……本人には内緒だか。

 主の様子を伺い、ヴィレムは切り出した。
「明日も早いですし、片付けをして今晩は休みましょう。アルト様とキナリ様は、食器の片付けを手伝って頂けませんか?」
「もちろんです〜」
「もちろん、炎魔法ですぐに乾かしてみせるよ」
アルトは得意げに答えた。

「ふふ、2人ともお願いします。ボクは、少しだけ片付け残してる所あるから、先に中に戻ってるね」
「私も手伝う〜!」

ルボワは元気に答え、2人は小屋に戻って行った。