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1章「精霊の森」

フィリア達は、キナリが寝泊まりしているという小屋で一晩を明かすことになった。食後、ヴィレム達男性3人は食卓の片付け、フィリアはルボワと共に部屋の片付けに戻る。


 夕食を終えたフィリアとルボワは小屋に戻り、少しだけ残した片付けを再開した。するとフィリアは心配そうに、ぼやいた。
「うーん…… やっぱりヴィレム達に向こうで寝てもらうの、引け目を感じるなぁ」

 育ちがいいフィリアには家畜小屋で寝ることは受け入れ難いようだ。とりあえず、夕食前にアルトが壊れた壁を適当に塞いではくれたが。
「なんだか、私たちだけ贅沢してるみたいだね。でもあと3人はちょっと狭いかなぁ……」

 言ってしまえば、一時的な休憩所の様な小さな部屋。物の破損や風化が酷く、長年放置されていたため埃が積もっている。
「そうだよね、今度宿をとる時はいいベッドがある部屋を勧めようかな……」
「うん、それがいいと思う! ほらっ、床綺麗にして寝る準備しよ! せっかくみんな譲ってくれたんだから! 私の草花のベッドも寝言地最高なんだから!」

 ルボワはそう言うと、自らの力で生み出した草木で箒を作り出しフィリアに渡した。2人は淡々と床に散らばった埃を箒で集めていく。

「よし! これで寝れるね」
「うん! あ、ベッド少しだけ中央に寄せようか。2人で寝るのに端過ぎるかなって」

 2人はベッドを少しだけ部屋の中央に引っ張った。すると、ゴトンと何かものが落ちる音が聞こえた。

「何の音……?」

 気になったフィリアは落ちたものを拾った。フォトフレームだ。写真の部分の硝子は曇っており、よく見えなかった。
「写真…… もしかしてこの小屋の持ち主の物かな?」
「かもしれないね?名前とか書いてないかな?」

 フィリアは恐る恐る、フォトフレームの裏側を開けた。そこにはセピア色で写された写真が入っていた。そして、2人の男女が写真に写っていた。

 暗めの髪に色素が薄めな瞳の色を持つ青年。職業柄だろうか、しっかりとした身体だった。少し貧しそうな装いだ。もう1人の女性も長く艶やかな暗めの髪に、貧しい衣服には釣り合わない装飾があしらわれたブローチを付けている。然しながら美しい容姿を持った女性だ。

 二色刷りのため、本来の姿は明確には分からないが恐らくふたりは夫婦だろう。指輪を填めている。

「この写真……何年前の物だろう。現在の西の国〈ノインシュテルン〉では、鏡石〈ミラーストーン〉を使って色付きの写真を撮れるんだけど……」
「へぇそうなんだ。どこかになにか書いてないかな?」

 『鏡石ミラーストーン』とは、人が見た風景や情景等を映すことができる魔法石の1種。魔力を込め、用途別に魔術を組み込むと、写真を撮ることができたり、映像を残すことが可能な物だ。

 写真を裏に返すと、経年によって文字の薄れた状態で年号が書いてあった。
「星歴1775年……5月……?」
「ねぇ、フィリア。今って何年?」
「今は星歴1815年。つまりこれは50年も前の写真です……こんなに放置されていたなんて」

「うーん」
「ルボワ?」
ルボワは写真を見ながら顎に手を当て首を傾げていた。何か考えているようだ。

「なんかこの人……キナリに似てない?」
「えっ……でも姿が…… この方は20歳くらいに見えるけどなぁ。私たちが知ってるキナリは10〜15歳くらいだよ?」
「そうなんだけどね、なんか何処と無く雰囲気似て感じるんだけど……うーん、でもこんなにハンサムじゃないかぁ」
何気に失礼なことを言ったルボワ。でも実際あんなにも能天気で正直何も考えていなさそうな少年には到底結びつかない印象だった。

「彼には謎が多いけど、流石にここまで歳が違うと考えにくい気がするなぁ」
「じゃあこの女の人は?」
「多分おふたりは夫婦かな。指輪をしているし、幸せそうな写真だよ」
「そうだ! 試しにキナリに写真見せてみない? お嫁さんだったら何かビビっと来るかも!」

 ルボワは自信ありげに、両手の人差し指を上にしクルクルと回していた。
「そうだね。明日聞いてみよう!」



 その頃、アルトとヴィレム達はは食器を片付けていた。近くの川へ食器を持ち出し、洗いにゆく。

「ヴィレム君は料理の腕が高いね。シチューすごく美味しかった。今度、作り方のコツを教えてよ」
「それは、身に余るお言葉です。かく言うアルト様の妹様のシチューも素晴らしいと仰っていましたね」
「うん。メルのシチューはとても優しい味がするんだ。あと、ワンポイントでブロッコリーが乗ってる」
アルトは楽しそうに、そして、優しそうな顔で答えていた。

「ブロッコリーと言えば北の国のお野菜ですね。……アルト様は、妹様の話をする際とても楽しくて優しそうな顔をされますね」
「? そうかい? はは、大切な妹だから……かな。僕のだった1人の家族だから……か」
アルトは少々照れ気味に、そして決意を決めたような真面目な顔で、たった1人の家族と答えたのだ。

「すみません……ご両親はいらっしゃらないのですね」
「うん。僕が12歳の時に事故で他界したんだ。それからは2人で暮らしてる」
「アルト様は、化学者としても錬金術師としても名を挙げてらっしゃいますが……さぞ大変な日々っだったでしょう。妹様もいらっしゃることですし」

「そんなことないよ。僕は父から錬金術の手ほどきを受けていたし、メルは母から家事を教わってた。だから、僕がお金を稼いで、メルには家事をしてもらって。兄妹だけどそうやって暮らしてたんだ。だからかな?メルのシチューは母さんのシチューそっくりで安心する」
アルトは思い出に浸りながら、話した。妹はフィリア歳が近いらしい。アルトは18歳。フィリアと歳が近いというメルはつまり、10歳にも満たない年で家事をしていたことになる。10代の兄妹が2人で切り盛りをしていたということだ。

「おふたりで手を取り合って生きてきて、今があるのですね」
「うん。だから歩けなくなったメルを自由にしてあげたい。ずっとあの森から出られない……そんな悲しい思いはさせたくないんだ。あぁごめん僕ばっかり、それに暗い話まで……」
「そんなことありません。アルト様がどう過ごして来たか興味があったのです。教えて頂きありがとうございます」
「そんな。でもありがとうって言うのかな、こういう時は」
「? ……と言いますと……?」

「はは。僕さ、歳が近い知人が居ないからさ、こんな話でも出来て嬉しかったよ。そうだ、ヴィレム君って歳は……」
アルトはヴィレムに微笑みかけ話した。ヴィレムと仲良くなれる、と期待していたのだろうか。

「もうすぐ20歳になりますね。このままフィリア様にお仕えして、10代を過ごせたら私は幸せです」
「という事は19歳なんだ。僕ったら勝手に同い年だと思って話してたよ。1歳年上だったね……」
若くして大人の世界に生きる青年だからだろうか、アルトは時々身分や立場を考え、遜ろうとする事がある。

「そんな顔なさらないでください。私は使用人ですので、相手を敬う立場にあるのです。アルト様は国に認められた錬金術師でもありますから」
「でもごめん 。あっでも、僕が錬金術師だから敬うのは無しね。好きで極めてたらこんなになってただけだし。そうだ、ヴィレム君。僕のことは様つけなくて良いからさ、気楽に話してくれていいよ。その方が僕も話しやすい。良いかな?」
「分かりました。ではアルトさんと呼ばせて頂きます。敬語なのは性分ですのでご理解いただければと」
「うんわかった。改めてよろしくねヴィレム君」
「はい」

 そうして2人は洗い物を終える。その後はアルトが得意な炎魔法で食器を乾かして見せた。見事な時短に大切な食器を生乾きでしまわずに済むことを、ヴィレムは喜んでいた。

 一方キナリは、翌朝の分の薪を取りに行き、男子2人が戻ってくる頃には、幸せそうな笑顔で藁にベッドにひっくり返っていた。普段の顔と変わらず、寝ているか判別しにくかったが、すやすやと寝息を立てていた。

 フィリアとルボワも最後の掃除を終えており、2人が戻って来るタイミングで、おやすみと一声かけてそれぞれ寝床へと向かった。